中央水研ニュースNo.25(2000(H12).12発行)掲載

【研究情報】
中央水産研究所におけるJICA水産加工品製造研修
岡崎恵美子

 平成12年7月3日(月)~11日(火)の7日間、中央水産研究所においてJICA(国際協 力事業団)研修員を対象とした水産加工品製造実習が加工流通部・利用化学部を中心として行われ た。
 この研修は、JICAが主催する各種の研修コースのうち、「漁獲物処理コース(Handling and Primary Processing of Fishery Products (Course)」の一環として行われたものである。ここに その概要をご紹介する。

JICA研修「漁獲物処理コース」
 本コースは、途上国の水産業振興のために、各国において漁獲物処理に従事する中堅技術者を対 象として実施されている。
 本年度の研修期間は5月30日から9月3日までの97日間であり、漁獲物処理や水産加工品製 造の理論と技術、品質・衛生管理技術の基礎等を修得できるようにプログラムが組まれている。参 加者は、アジア1カ国(スリランカ)、中南米6カ国(コロンビア、ペルー、キューバ、ウルグア イ、ヴェネズエラ、メキシコ)、中近東1カ国(トルコ)、大洋州1カ国(キリバス)、アフリカ 2カ国(チュニジア、モロッコ)からの合計11名で、水産関連企業、行政機関、国立研究機関、 大学などに所属する27才~49才の中堅の指導者であった。彼らはすでに水産加工関係の基礎知 識を持ち、自国の水産加工関連の問題に関して活路を切り開くべく意欲的に取り組んでおり、研修 にも非常に積極的に参加していた。
中央水産研究所における製造実習
 これまでJICA研修「漁獲物処理コース」は、1994年の立ち上げ以来、JICA研修センター における大学教授等の専門家による講義、東京水産大学実習場における水産練り製品、缶詰の製造 実習、企業研究所の見学などを中心として毎年行われてきたが、塩干品や燻製品など実習科目の充 実が強く要望され続けてきた。しかし横須賀市の研修センターが、平成14年にみなとみらい地区 に移転後は実習場をもつ研修施設としての機能をもたないことや、企業における外国人研修受け入 れは衛生管理の厳格化から困難になったこと、大学での製造実習は教養課程の学生実習の枠組みに 限られ不都合な点も多々あること等の理由から、水産加工関係の先端的な研究を行い優れた施設を 擁する唯一の国立研究機関である中央水産研究所に研修受け入れの熱烈な依頼があり、これを受け て公式に平成11年から最低5年間は継続ということで実施することになったものである。
 2年目に当たる本年度も昨年と同様、講師として北海道立釧路水産試験場から水産加工品製造に おいて経験豊富な佐々木加工部長と船岡主任研究員の派遣をお願いし、西岡加工流通部長を含めた 3氏の技術指導を仰ぎつつ、加工流通部、利用化学部の研究者もそれぞれの担当分野での指導を行 った。
 研修の対象となる塩干品・燻製品・練り製品の具体的な品目として、研修員が自国ですぐに応用 可能な技術に絞り込んだ結果、ホッケすり身、スモークサーモン、鮭フレーク瓶詰め、イカ燻製、 ほっけ一夜干し、フィッシュチップス、ホッケすり身を用いた竹輪の7品目を選定した。7日間の 研修はやや過密スケジュールであったが、学生や非常勤職員の方々のご協力も戴きながら終了し、 最終日の試食会には無事に全製品を披露できた。研修員にとっては非常に充実した研修であり、全 研修プログラムのなかで最も好評であったとのことである。「実習に参加することで、各種加工品 の製造工程が非常によく理解できた」、「関係者全員が協力的で、指導が懇切丁寧だった」、「実 習は講義より学習能力を高めるのに優れており、大変良かった」「原料をどのように加工するのか 実際に目で確認できて良かった。帰国後自分で試してみたい」等の感想が寄せられた。
 中央水研スタッフにとっては通常の研究業務の合間の資材・原料の準備や実習プログラムの作成 、研修指導は確かに骨が折れて負担もあったが、これが国際協力に役立ち各国における水産資源の 効率的利用に結びつくのであれば、中央水産研究所としての協力も惜しむべきではないであろう。 また専門が加工品製造とは直接関係のない研究員にとっても、英語による講義を通じた国際感覚の 修得や、産業研究所としての責務を再認識するためのよい機会になったのではないかと思われる。 今後もこのような研修を継続する以上は、研修機関と研修員の双方にとってメリットのあるものに していきたいものである。

(加工流通部品質管理研究室長)

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