干潟底泥の脱窒速度の評価


[要約]
 干潟の底泥の脱窒速度をアセチレン阻害法によって測定し、海域によって脱窒速度が異なるのは、泥質の違いによって栄養塩供給機構が異なるためであることを明らかにした。伊勢・三河湾の砂質干潟では脱窒速度が従来考えられてきたよりも小さいと考えられ、浄化機能に対する寄与度については慎重に評価する必要がある。

愛知県水産試験場

[連絡先] 0533-68-5196[推進会議]中央ブロック水産業関係試験研究推進会議[専門]  漁場環境[対象]  微生物[分類]  研究

[背景・ねらい]
 内湾沿岸域に広がる干潟は、いわゆる浄化機能を有する重要な環境として注目されており、中でも無機態窒素を窒素ガスとして系外 に放出する脱窒作用は、直接的自浄作用として重要視されている。しかし、干潟における脱窒速度の実際の測定例は少なく、また、測定方 法、測定時期等により相当のばらつきがある。そこで、伊勢・三河湾の性状の異なる干潟域(図1)に おいて、近年脱窒速度の測定法として広く用いられているアセチレン阻害法によって底泥の脱窒速度を測定し、窒素の収支に占める脱窒の 重要度の評価を試みた。

[成果の内容・特徴]

  1. コア法においては、特に間隙水の移動による基質の供給が長時間培養によって妨げられるので、できるだけ短い時間で測定を行うべき であると考えられた。短時間の培養であればコア法の方がスラリー法よりも安定した測定値を与えた。
  2. スラリー法は常にコア法よりも安定した測定値を与えたが、希釈海水中のNO3-N濃度によって測定値が左右される。以 上のことより、現場の脱窒活性を評価するには、コア法を用いた短時間の測定がすぐれていると考えられた。
  3. 粗い砂質の一色干潟では、1地点を除いて測定時期にかかわらずコア法における脱窒速度は1mgN/m2/day前後の低い値 を示し、変動も小さかった(0~1.40mgN/m2/day)。
  4. 細かい砂質の小鈴谷干潟では、コア法による脱窒活性は0~0.35mgN/m2/dayと一色干潟よりさらに低かった。
  5. 泥質の藤前干潟では、コア法における最も高い測定値である10.02m2/dayが得られたが、時期による変動が大きかった。
  6. これらの脱窒活性の律速の相違は海域の泥質とそれに伴う栄養塩の供給形態の相違に関係していると考えられた。すなわち、粒度の大 きい砂質干潟では潮汐による間隙水の交換が大きく、間隙水の栄養塩環境が底泥の脱窒速度を律速するのに対し、粒度が小さく間隙水の交 換が悪い泥質干潟では、上層水からの栄養塩の供給が底泥の脱窒速度を律速する。
  7. 従って河川水の影響を恒常的に受ける藤前干潟では、陸域からの栄養塩の負荷によって底泥の脱窒速度は大きく変動するのに対し、潮 汐によって間隙水に比較的安定した栄養塩の供給が見られる一色干潟では、脱窒速度も安定していた。また、上層水の栄養塩濃度が常に低 く、間隙水に対する供給が見られず、有機態炭素の備蓄も小さい小鈴谷干潟では脱窒活性はほとんど見られなかったと考えられる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 泥質とそれに伴う栄養塩の供給構造の相違による脱窒速度の相違が明らかになったので、他海域の干潟においても、脱窒速度をある程 度予測することができる。
  2. 脱窒速度は従来考えられてきたほど大きくない場合もあると考えられ、干潟の浄化機能に対する寄与度については今後慎重に検討する 必要がある。

[具体的データ]




[その他]研究課題名:干潟の水質浄化機能に果たす脱窒の定量的効果予算区分 :沿岸漁場総合整備開発基礎調査(国補)      漁場生産力向上技術開発試験(県単)研究期間 :平成6~8年(国補)      平成5~9年(県単)研究担当者:黒田伸郎発表論文等:干潟の脱窒速度の測定について、愛知県水産試験場      研究報告、4号、1997
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