トコブシの初期飼育における塩分濃度の影響


[要約]
 トコブシの種苗生産過程において、飼育海水中の塩分濃度の影響を調べる目的で、浮遊幼生(ベリジャー)を用い、塩分濃度別に遊泳率と変態率を調べた。その結果、塩分濃度が低いと遊泳率や変態率ばかりでなく幼生(稚貝)生存率にも影響を与えることが確認された。

静岡県栽培漁業センター

[連絡先] 0559-39-0804[推進会議]中央ブロック水産業関係試験研究推進会議[専門]  飼育[対象]  他の巻貝[分類]  研究

[背景・ねらい]
 栽培漁業の普及に伴い、県内でもトコブシ種苗放流が検討され、種苗量産開発を行っている。しかし、放流用種苗を安定的に供給す るためには種苗生産過程で残されている課題も多い。大きな課題として浮遊幼生期や変態期前後の稚貝の減耗があげられる。
 浮遊幼生期や変態期前後の稚貝減耗の一因として、飼育海水中の塩分濃度の低下の影響が考えられた。これまでに、アワビ幼生に与える 飼育海水の塩分濃度の影響については、塩分濃度が低ければ、幼生の変態や稚貝飼育に影響を受けることが報告されているあ、トコブシに ついて調べられた例は少ない。
 そこで、飼育海水中の塩分濃度が種苗生産に与える影響を明らかにすることを目的に試験を行った。

[成果の内容・特徴]

  1. 浮遊幼生および変態直前の幼生を用い、塩分を33~18の範囲で4または5段階の濃度の海水が入った試験管に幼生を約20個づつ入れ、 25℃で5日間飼育し、遊泳率、変態率、生存率を比較した。なお、変態期の幼生を用いた試験区には着底基質として、付着珪藻を増殖させ た波板片を入れた。
  2. 塩分25付近の浮遊幼生は、実験開始2日後の遊泳率が80%であった。しかし、4日後には40%に減少した (図1)
  3. 実験開始5日後の変態期の幼生は塩分30付近では生存率、変態率ともに80%であったが、塩分26付近で変態率と生存率が40%に減少し た。さらに、塩分22付近では、生存率は40%あったが、変態個体は全く見られなかった(図2)

[成果の活用面・留意点]

  1. 本試験から、飼育海水中の塩分濃度低下は幼生の遊泳や変態に影響があることが確認された。特に塩分25~26に低下すると、生産過程 において浮遊幼生飼育や採苗の効率が影響を受けることが明らかになった。

[具体的データ]



[その他]研究課題名:地域特産種量産放流技術開発事業予算区分 :国庫補助研究期間 :平成7年度研究担当者:石田孝行、鷲山裕史発表論文等:トコブシ幼生の遊泳および変態、変態後稚貝の生残に及ぼす海水      塩分濃度の影響、静岡県水産試験場研究報告(32)、13-16、1997
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