神奈川県におけるマダイ種苗放流効果の推定


[要約]
 神奈川県におけるマダイの種苗放流効果について1990年から1994年までの市場調査に基づいて推定した。放流尾数10万尾当たりの回収尾数は8.9千尾、回収重量は5トンと推定された。また、漁獲物重量混獲比率は0.39から0.65であった。

神奈川県水産総合研究所

[連絡先] 0468-82-2311[推進会議]中央ブロック水産業関係試験研究推進会議[専門]  増養殖技術[対象]  たい[分類]  研究

[背景・ねらい]
 神奈川県では1978年以来、体長5~10cmの人工種苗生産したマダイを相模湾と東京湾に毎年80~120万尾放流してきた。今回は、1990 年から1994年の間に市場に水揚された漁獲物中に人工放流に由来するマダイの割合に基づいて神奈川県で放流されたマダイの回収状況を推 定しようとするものである。
 あわせて、遊漁者によるマダイの釣獲状況を把握し、漁業による漁獲量と比較した。

[成果の内容・特徴]

  1. 神奈川県では毎年、漁業と遊漁を併せて15~16万尾、105~110トンを捕獲している。漁業と遊漁の捕獲比率は37:63であり、遊漁での マダイ利用漁獲を上回っている。
  2. 捕獲されているマダイの年齢は2,3歳魚であり、再生産以前に大部分捕獲されている。小型魚の保護が必要である。
  3. 放流種苗からの年平均回収尾数は6.7~10.3万尾、重量で40~78トンまた、10万尾当たりの回収尾数は8.9千尾、5トンと推定された( 図1)。
  4. 神奈川県で捕獲される放流魚が県下のマダイ総水揚げ重量の中で占める比率は、0.39~0.65と推定された( 図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1.  栽培漁業の成立条件を判断するためには、放流された種苗の回収状況をできるだけ正確に把握する必要がある。放流されたマダイ種 苗の回収量の把握には1989年までアンカータグ標識放流の再捕報告に基づいて計算されてきた。しかし、この方法では、アンカータグ標識 がマダイの成長とともに脱落することと、また、再捕報告が年々低下し回収量の計算が不正確になることが指摘されてきた。そこで、今回 は、人工種苗生産魚の特徴として認められている鼻孔隔壁が欠損している魚の割合を市場で調べる方法に改善した。この方法は、放流種苗 の全部が鼻孔隔壁欠損魚ではないのでアンカータグ標識放流再捕魚の鼻孔隔壁欠損率をもって補正し、回収量を推定したものである。今後 は、放流種苗の鼻孔隔壁欠損率を把握しておく必要がある。
     次に、遊漁による釣獲量の推定については、1989年に神奈川県水産課が実施した遊漁釣獲量調査を標準値として、同年の一人一日当たり のマダイ釣獲尾数CPUE・大きさを基にその後の年におけるCPUEと比較することによって値を求めたものである。継続して遊漁での マダイ利用状況を把握するためには、5年間隔で行われている漁業センサスにあわせて同様の調査が実施されることが望ましい。
     今回算出された回収量に基づいてマダイ種苗放流の経済的評価が可能となり、マダイ種苗放流事業の現状と問題点が経済的に摘出される ことによって、今後の種苗放流事業の経営をどのようにしていくべきかの判断につながっていくものと考えられる。 

[具体的データ]




[その他]研究課題名:神奈川県におけるマダイ種苗放流効果の推定予算区分 :広域試験管理型漁業推進総合対策事業研究期間 :1990年~1998年研究担当者:今井利為発表論文等:神奈川県におけるマダイ種苗放流効果の推定、栽培技術研究、      25(1)、59-74、1996.
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