東京湾で大発生しているアオサの生態研究


[要約]
 アオサの現存量調査と栄養塩分類の現場観測から、アオサによる栄養塩の吸収実態とアオサの積極的回収が発生量を抑制することが明らかになり、本種の回収を通じた環境保全手法の確立に重要な示唆を与えた。

神奈川県水産総合研究所

[連絡先] 0468-82-2311[推進会議]中央ブロック水産業関係試験研究推進会議[専門]  漁場保全[対象]  他の海藻[分類]  研究

[背景・ねらい]
 東京湾に面した金沢湾では、アオサ属の1種(以下、アオサと称する)が大発生して海岸に打ち上がって腐敗し、生活・アメニティ ー上の大きな問題となっている。また、水産の立場からも他の海藻類の生長を阻害したりアサリ、ゴカイなどの底生動物をへい死させるな どの悪影響が懸念されている。反面、アオサによる栄養塩の取り込みが物質循環上の緩衝作用を有することが予想される。そこで、アオサ の生態を解明することによって本種が物質循環の中に占める位置や発生機構を知り、本種を環境保全に活用する方策を探る。

[成果の内容・特徴]

  1. 金沢湾の海の公園(人工海浜)と野島海岸(自然海浜)に9点づつメッシュ状の調査定点を設け、毎月1回の潜水枠取り法による現存 量調査を実施した。
  2. 野島海岸では7、8月に現存量のピークがみられたが、海の公園では4月にピークが現れた。海の公園では4月から海中アオサの回収 事業が開始されたので、その影響で夏季のピークが不明瞭になったものと考えられた(図1)
  3. 9月22日には台風17号の波浪により本種の大量打ち上げが起こり、10月の現存量は著しく減少した。
  4. 着生葉体は全調査期間を通じてほぼ全域でみられ、アオサは特定の発生源をもたないことが明らかになった。
  5. アオサ繁茂域のDIN(無機溶存態窒素)とPO1-P(燐酸態リン)はアオサの現存量の増大に伴って減少し、5~8月 に低レベルで推移した。また、アオサが減少する9月以降栄養塩は増加に転じ、夏季の栄養塩の低下はアオサの取り込みによるものと考え られた(図2)。

[成果の活用面・留意点]

  1. アオサと栄養塩類の現場観測から、アオサによる栄養塩の吸収実態が明らかになり、海の公園におけるアオサの積極的回収行為が発生 量の結びつくことが判明した。本研究は、より有効な回収方法等の検討と栄養塩類除去による環境保全手法の確立に重要な示唆を与えるも のである。この成果は現在横浜市が実施しているアオサの回収事業と回収後のアオサ資源化の検討へと速やかに反映され、水産資源の保育 場として干潟環境の保全や、アメニティー空間としての海浜の価値の向上へと結び付くことが期待される。

[具体的データ]




[その他]研究課題名:東京湾で大発生しているアオサの生態研究予算区分 :重点基礎研究(県単)研究期間 :平成8年度(平成7~8年度)研究担当者:工藤 孝浩発表論文等:
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