高度回遊性魚類脂質中の高ドコサヘキサエン酸含有量


[要約]
マグロ類やカツオなど高度回遊性魚類の細胞内脂質成分を解明し、すべての魚類で全魚体にわたり、高い濃度でドコサヘキサエン酸(DHA)を含むことを明らかにした。その結果、今まで破棄されていた頭部や内臓などの未利用部分からDHAを大量供給できることが明らかとなった。

中央水産研究所・利用化学部・脂質化学研究室

[連絡先] 045-788-7658
[推進会議]水産利用加工研究推進全国会議
[専門]  水産成分・水産生物利用
[対象]  魚類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 イコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は、循環器系疾患の改善やかん化の予防など生理活性から注目されている。それらの生理効果を起因として、魚食を中心とする「日本型食生活」も見直され、既にEPAは医薬品として認可され、DHAも医薬品や特定保険用食品素材として検討がされ、大量供給が要望されている。
 一方、それらのDHAやEPAなどのn-3高度不飽和脂肪酸は水産物特有であり、ほとんどすべての海洋動物類に含まれているが、海洋生物脂質は変動し、大量で純度の高い素材原料の提供は難しいとされてきた。その中で、高度回遊性魚類がDHAの供給源としての可能性があることが徐々に明らかになって来つつある。
 そこで、高度回遊性魚類中のDHAの分布や濃度について詳細に検討し、素材原料としての可能性を明らかとし、有効なDHA原料を開発することを目的としている。

[成果の内容・特徴]

  1. マグロ類(クロマグロ、キハダ、ビンナガ)、スマ類(スマ、カツオ)及びソウダガツオ属(ヒラソウダ、マルソウダ)魚種7種類の筋肉や内臓各器官の脂質分析を行い、ガスクロマトグラフィーにより全脂質中の脂肪酸組成を検討し、3属すべての種のすべての器官でDHA含有が際だって高く、25~30%の割合を示すことを明らかにした(図1)。
  2. カツオやビンナガでは脂肪酸組成に季節変動や海域差がなく、特異的に一定の高いDHA含有を示すこと、及びカツオやキハダでは温帯産と熱帯産に若干の差があるものの、種としては他の海産魚類に比較して極めて高いDHA含有を示すことを明らかにした。
  3. キハダやクロマグロ幼魚による試験によりDHA含有は若年魚のうちから高いことが分かった。また、全魚種において、餌脂質由来の胃内容物脂質と比較したところ、すべての試料で組織中のDHA含有が有意に高く、高DHA含有は餌脂質からの選択的蓄積と推定され、その原因は短期間での広範囲にわたる回遊にあることが示唆された。

[成果の活用面・留意点]

  1. マグロやカツオの不可食部である内臓や頭部は、可食部と異なり、水産廃棄物(残滓)であり、ほとんど付加価値がなかったが、本研究により、それらに高濃度でDHAが含まれ、DHA給源として有望であることが明らかとなった。

[具体的データ]



[その他]
研究課題名:海洋生物の脂質特性と脂質産生機構の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(平成8~12年)
研究担当者:齋藤洋昭、村田昌一、石原賢司
発表論文等:1)The fatty acids composition characteristic of a highly migratory fish, with seasonal variation of docosahexaenic acid content in lipid of bonito(Euthynnus pelamis).Biosci. Biotech. Biochem.,59,2186-2188(1995)
2)Effect of the lipid of the prey fishes on the docosahexaenoic acid content of the total fatty acids in the lipid of yellowfin tuna, Thunnus albacares, caught in the two differenct localities. Biosci. Biotech. Biochem., 60, 962-965(1996).
3)The fatty acids composition characteristic to the highly migratory fish in tuna species, effect of habitat on the docosahexaennoic acid content in the lipid of bonito(Euthynnus pelamis). J. Sci. Food Agric., 73,53-59(1997).
目次に戻る