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写真1 |
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はじめに
海水浴シーズンがやってきました。とても楽しい海水浴ですが、海で泳ぐ場合はクラゲに十分注意しなくてはなりません。海水浴場に多く現れるクラゲは「アンドンクラゲ」という種類です。4本の長い触手をもっていて、この触手に人間の体が触れると毒をもった刺胞が発射されて大変に痛い思いをすることになります。アンドンクラゲは主に夏に出てくるクラゲですが、今回は春から初夏にかけて注意が必要な「カギノテクラゲ」(写真1)についてご紹介します。 |
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カギノテクラゲとは?
カギノテクラゲ (Gonionema vertens) は、各地の海藻の間に棲んでいて、春から夏にかけて見られます。1~2cm程度の小型のクラゲで体は透明、触手は短く茶色やオレンジ色をしています。名前のとおりにカギ状に折れ曲がった触手を持っていて、触手にある付着細胞を使って海藻の表面に張り付いて生活しています(写真1)。相模湾では、テトラポッドの内側などの波当たりが弱くて海藻の多いところで、通常4月から5月にかけて多く見られます。 |
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カギノテクラゲによる被害
今から4年前、2001年6月に神奈川県横須賀市長井地区の潜水漁業者の間で、カギノテクラゲによると思われる刺傷事故が相次ぎ、呼吸困難などの全身症状を発症して救急車で運ばれるケースも数件発生しました。数年に一回忘れた頃に同じような事故が発生しているという話もあり、どうやら1年限りの事故ではなさそうでしたので、急遽アンケート調査を行って被害実態を確かめてみることにしました。その結果、カギノテクラゲに刺されたことがある人は全体の半数近くもいて、そのうちのほとんどの人が直接刺された部分以外の全身症状を経験していることが分かりました(図1)。具体的な症状は、喘息の様なせき、鼻水といったものが多かったのですが、中には痙攣やチアノーゼを発症した人もおり、人によっては重症化する可能性がある危険なクラゲであることが分かりました。 |
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カギノテクラゲ調査プロジェクト始動
そこで中央水産研究所では、クラゲの専門家を擁する海洋生産部と地元の長井にある浅海増殖部とが協力して、「カギノテクラゲの毒性・分布生態と分類・生活史の再検討」というプロジェクト研究をスタートさせました。このプロジェクトの目的は、まずカギノテクラゲの毒性を確認し、どんな一生を送りいつどんなところに現れるのか調査を行うことによって、カギノテクラゲ被害発生のしくみを明らかにすることでした。次にプロジェクト研究の結果の一部を簡単に紹介します。 |
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カギノテクラゲの毒性
毒性をカギノテクラゲとアンドンクラゲで比較してみると、カギノテクラゲの溶血毒の活性はアンドンクラゲに比べて低いものの、神経細胞に特異的に作用する成分が含まれていることが分かりました。詳細はまだ不明ですが、カギノテクラゲには神経毒と考えられる成分が含まれていて、その神経毒が全身症状をひきおこしているものと考えられます。かなりの個人差があるようですが、カギノテクラゲに刺された場合は、神経毒による全身症状の発症を警戒しておく必要があるでしょう。 |
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カギノテクラゲが現れる時期
長井地区の近くの藻場で2001年10月から2002年10月までの1年間を通してクラゲの分布を調査した結果、カギノテクラゲが出てくるのは2月から6月で、特に数が増えて警戒する必要がある時期は、水温が15℃から20℃くらいまで上昇する時期の4月から5月であることがわかりました(図2)。 |
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なぜ潜水漁業者の間で刺傷事故がおきたのか?
長井地区の素潜り漁は、毎年6月1日に解禁になります。調査を行った2002年は、カギノテクラゲ発生のピークは4月から5月までで、6月に入ると急激に減少することから、素潜り漁の解禁のころにはカギノテクラゲはほとんどいない状態になっています。実際、2002年はクラゲの被害が全く聞かれませんでした。被害が出ない通常の年は、2002年と同じような経過をたどるのでしょう。しかし、被害が発生した2001年は、通常年とは異なり6月に入ってもたくさんのカギノテクラゲがいたことになります。それはどうしてなのでしょうか。2001年は通常の年と比べて水温の上昇が遅く、通常カギノテクラゲの発生のピークを迎える時期、特に4月の水温が低いままでした(図3)。そのため、カギノテクラゲの成長が遅くなり、発生のピークが6月の素潜り漁解禁までずれ込んだため、多くの漁業者が被害にあったものと考えられます。 |
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カギノテクラゲ予報
4月から5月の水温が低いときには、カギノテクラゲ発生のピークが6月にずれ込み素潜り漁の始まりと重なってしまうことが分かりました。したがって、毎年4月から5月の水温に注意するとともに、素潜り漁解禁直前の5月下旬にカギノテクラゲがどのくらいいるか調査しておけば、「カギノテクラゲ予報」が出来ます。
今年2005年は、特に5月の水温が例年より低く(図4)、おそらくカギノテクラゲの発生は遅れているだろうと予測し、素潜り漁解禁日の6月1日の朝に長井地区の藻場でカギノテクラゲがいるかどうか調べたところ、様々な大きさのカギノテクラゲが多数確認されました。そこで、操業中の漁船に注意を呼びかけるとともに、以下のような文面で長井町漁協の組合員の各家に回覧をして注意を呼びかけました。
【中央水産研究所横須賀庁舎からのお知らせ】
カギノテクラゲに注意してください!
4年前に被害を出したカギノテクラゲが発生しています。
中央水産研究所は6月1日に漆山テトラ内側で、カギノテクラゲの定期調査を行いました。カギノテクラゲの密度は1平方メートルあたり2個体でした。これは、最も多い時期の量に相当します。生まれて間もない直径1-2mmのクラゲも1/4を占めました。この大きさのクラゲが6mm以上の成熟したクラゲになるのに、約1ヶ月を要することから、6月いっぱいはカギノテクラゲが多いものと予想されます。クラゲ毒はハチ毒と同様、刺されるたびに、だんだん症状が重くなると言われております。十分な防護対策をとられるよう、おすすめします。 |
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おわりに
最後に、カギノテクラゲに刺された場合の処置の方法です。万一、刺されてしまった場合には、まず全身症状の発生を警戒してください。横須賀庁舎の一般公開の時に作った処置方法のパネルをご紹介しておきます(図5)。ただし、ふつうの海水浴シーズンにはカギノテクラゲはいませんし、春から初夏に海で遊ぶ場合も、むやみに海藻がたくさん生えている場所に入っていかなければカギノテクラゲに刺されることは無いと思います。海には危険な生物もいるということを知ったうえで、楽しく海遊びをするのが一番です。 |
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