【研修と指導】
平成15年度新入職員オリエンテーションを終えて
清水 学

写真1. 竹芝桟橋に集合した「新入職員8名」 |
後列左から,筆者(中央水産研究所黒潮研究部海洋動態研究室),出口 允(同総務課),山上 梓(本部経理施設部会計課),中山智明(同施設管理課),荒井健吾(同会計課).前列左から,松嶋良次(中央水産研究所利用化学部応用微生物研究室),高嶋康晴(同加工流通部加工技術研究室),藤本 賢(同海洋生産部海洋放射能研究室).撮影したのは,同行の小谷企画連絡科長。(所属は,平成15年10月1日現在)
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“新入職員オリエンテーションによる大島現地研修”という案内を頂き,まず最初に感じたのは,「また研修なのか?30歳半ばにして,新入職員….という名前もかなり違和感があるなあ。」というものであった。本オリエンテーションは,昨年度から中央水産研究所独自で行っているものらしく,昨年は小田原,今年は伊豆大島に行くというものであった(写真1)。伊豆大島では,次のようなスケジュールが2日間(6月9日,10日)かけて行われた。(1) 栽培漁業センター見学,(2) くさや加工場見学,(3) 座礁船「ファル・ヨーロッパ号」現場視察,(4) 波浮漁業協同組合との懇談会,(5) 東京都水産試験場大島分場における試験場見学,(6) 火山および貝博物館の見学 であった。そして,伊豆大島を後にし,(7) 東京都水産試験場本場(竹芝)での見学・懇談会,6月11・12日は中央水産研究所横浜庁舎に戻り,各部の紹介がみっちりと行われるというタイトなスケジュールであった。全てを書くことはできないので,ここでは印象に残ったことのみを列挙することにする。

写真2. くさや加工場にて。 |
くさや加工の歴史や作業工程を熱心に説明してくれた藤文商店の社長.話を聞きながらも,なんとなく臭いが気になる. |
まず,何といっても”くさや”である。“くさや”は,これまで食したことはなかったが,噂に数多く聞いていた水産加工物であった。小さな工場に案内されると同時に,鼻の奥までガツーンという強烈な刺激臭(決してフワァという爽やかなものではない)を感じたが,間もなくその臭いにも慣れ,“くさや”の付け汁を覗き込んだりできるようになっていた。見て,臭って,そして最後は食すという段階になるわけであるが,最初に感じた刺激臭はもう忘れており(慣れており),美味であり,「おぬし,なかなかやるではないか」と感じた。この味や臭いが癖になるという人もいるとは聞いた。しかし,後に冷静に考えると残念ながら自分は該当しないようであった。

写真3. ファル・ヨーロッパ号の船首部分. |
解体工事が始まっているものの,完了までに数年はかかるとの話.船体はすっかりさび付いてしまっている. | |
さて,座礁船「ファル・ヨーロッパ号」の現場は,信じられない光景であった。平成14年10月1日に伊豆大島南部にある波浮港付近で座礁し,半年以上経過した現在,やっと解体工事が始まったという状況である(写真3)。全長200m,5万7千トンが横たわった姿を見ると,もう座礁船周辺の漁場はかなりのダメージを受けているのであろうと誰もが思ったはずである。その後,東京都水産試験場大島分場の安藤主任研究員によって,詳細な調査結果の説明が行われ,座礁直後は油流出の影響により被害は凄まじいものであったが,段々と回復しつつある結果が示された(写真4)。しかし,以前と同じ漁場環境に戻るにはまだ数年かかるとも言われ,失われてしまった地魚ブランドへの信頼を取り戻すにはいつになるのかわからない。マスコミに取り上げられなくなった現在でも,補償問題を含めた数多くの問題点が山積みされ残っている。

写真4. 東京都水産試験場大島分場の安藤主任研究員の説明に聞き入る参加者. |

写真5. 東京都水試大島分場の実験場を見学. |
上記に示した現地見学のほかに,伊豆大島や竹芝で研究者や漁協職員の皆さんとの数回の懇談会が行われた。訪問した数日前に,メカジキやキンメダイの水銀問題がマスコミで取り上げられたこともあり,どの懇談会においてもこの話題が取り上げられていた。また,東京都水産試験場本場(竹芝)では,河川と内湾の関係の話題が取り上げられていた。沿岸域の研究を行ってきた私には,とても興味深く感じられた。特に,東京湾は,湾奥に大きな河川が存在し,湾内環境にも大きく影響する。東京湾に限らず,河川を含めた海洋環境問題は,水産・海洋関係に携わる我々のみで対応できるわけではなく,各省庁・各大学が協力しあって調査研究を展開すべきであると改めて感じるものであった。中央水産研究所横浜庁舎に戻ってから2日間にわたり各部の紹介が行われたが,このような研究内容を含んだ話題は4月に行われる水産総合研究センターのオリエンテーションに引き続き,早期に行った方が良いと思われる。部の名前だけでは何をしているのか容易に理解できない研究室(部)もあり,研究者にとっては今回のような実際に現在行われている研究内容を直接聞けることが何よりも良い情報となる。研究スタイルを早期に確立させる為にも,自分の部署は何を現在やっているのか,どこに相談に行けばいいのか,またどこと連携すれば解決できそうなのかは,4月の段階で知っておくべきものと思われる。
最後に,有意義なオリエンテーションの計画をして頂いた企画連絡室の皆様,および参加する機会を与えて下さった黒潮研究部の皆様に感謝いたします。くどいようですが,来年度からは,是非とも”新入職員オリエンテーション”の” 新入”という名前を削除し,既に在籍している若手・中堅の方々も一緒に参加できるような現地研修にして頂きたいと思います。難題はたくさんあるでしょうけど。
(黒潮研究部・海洋動態研究室)
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