中央水研ニュースNo.16(平成9年4月発行)掲載 |
【情報の発信と交流・研究室紹介】 初期生態研究室(生物生態部)
Early Life Ecolgy Section, Marine Biology Division 初期生態研究室の歴史は昭和24年東海区水産研究所設 立時のイワシ資源部生物科に遡る。昭和25年には資源部 イワシ資源科となり、その後昭和37年には資源部が5科 体制(うち2科は北洋対応)となったことを受けて、海産 魚類の卵稚仔研究に関する業務は沿岸重要魚種の再生産 ・産卵に関する生態研究に重点を置いた生態第1科と、 プランクトン研究に重点を置いた環境生物科に分かれた が、2つの研究室は共同で沿岸重要魚種の産卵調査を進 めてきた。この2つの研究科は翌38年には魚類生態科な らびに環境生物科と改称し、さらに39年には資源部資源 第4研究室・資源第5研究室と改称した。昭和42年には北 洋部門が遠洋水産研究所へ移管されたことに伴い、それ ぞれ資源第2研究室、資源第3研究室と改称し昭和63年ま で続いた。この過程で、資源第2研究室は魚類の卵・仔 稚魚等の初期生態研究に専門化していった。平成元年に 中央水産研究所に改組された際には、資源第3研究室が 海洋生産部低次生産研究室となり、資源第2研究室は生 物生態部初期生態研究室となった。これに伴って研究対 象も従来の魚類に限らず水産生物全般に広がり、また東 海ブロックだけでなく全国的な対応を行うこととなった。 以上のような研究室名の数度にわたる変遷はあったもの の、これまでの研究対象は一貫してマイワシ・マサバを 中心とする小型浮魚類であり、特に全国的な産卵調査に おいては率先してその組織化を図ると共に、結果の取り まとめを進めてきた。また、平成元年に始まった大型別 枠プロジェクト「バイオコスモス計画(浮魚制御系)」で は、マイワシの資源変動に関する研究を初期生態研究の 面から進めると同時に、研究室長がサブリーダーを継続 して引き受け、プロジェクト全体の発展に寄与している。 現在では研究の重点を、これまでの中心的な業務で あった中央ブロックにおける卵稚仔調査とその結果の集 約から、1)TAC体制の中で適正な生物学的許容漁獲量を 算出するために、我が国の実状にあった加入量推定手法 の開発、2)海産魚類卵稚仔の生理・生態に関する基礎的 な研究の推進、の2点に移して研究を進めている。 このうち、加入量推定手法の開発に関しては、平成7 年度から始まった特定水産資源評価技術開発試験事業に おいて、蒼鷹丸に装備されている多段式層別採集ネット (MOCNESS)を用い、海産小型浮魚類の卵仔魚期におけ る正確な日周鉛直分布について解析を進めると共に、表 層での採集結果を深層までの仔稚魚の密度推定に用いる 可能性について検討した。この結果、表層での仔稚魚の 採集結果から加入量を推定することには無理があること が判明したため、現在では米国等で用いられているMIKT ネット(Methot-Issacs-Kidd trawl)を改変した稚魚定量 ネットを開発し、定量的な仔稚魚採集手法の確立を目的 に研究を進めている。 卵・仔稚魚の生理・生態に関する研究については、平 成元年から行われているバイオコスモスプロジェクトの 中でマイワシの初期生活史に関する研究課題を担当して いる。この中では当所に導入された耳石日輪計測システ ムを有効に利用して、マイワシ仔稚魚の成長様式を耳石 日輪の解析結果から推定すると共に、プロジェクトを通 じて所内の他研究室ならびに高知大学海洋生物教育研究 センターとの共同研究を行い、マイワシ天然仔魚の栄養 評価を行うと共に、仔魚期のエネルギー収支を実験的に 解析するなど着実な成果を上げている。 当研究室では、水産生物の発育初期における減耗・分 散その他の生態に関する調査研究を行うこととなってい るため、現在行っている研究課題の他にも無脊椎動物を 含めた初期生活史研究などを幅広く展開していく必要が あるが、現時点での人員では対応が難しいため、今後は 外部研究機関との連携・協力をはかることにより多様な 研究二一ズに応えられるよう努力していきたいと考えて いる。 (大関芳沖)
参考写真 多段式層別採集ネット(MOCNESS)による採集
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