■ 研究紹介 中央水研だよりNo.1(2006. 平成18年2月発行)掲載
俊鷹丸乗船体験記 建田 夕帆 My experience note of fisheries research vessel "Shunyo maru"  Yuho Takeda


1.出航!
1.出航!
 2005年10月12日から10月30日にかけて、遠洋水産研究所俊鷹丸による調査の第2レグに参加しました。本調査は「イセエビ・ウナギ類の移送過程における生態調査及び沖ノ鳥島周辺の200海里内沿岸資源調査」の一環として行われたもので、那覇から沖ノ鳥島経由清水港まで約20日間の航海でした。2レグは船員調査員合わせて総員31名。沖縄は一見穏やかな天気。しかして衛星画像を見ると不気味に渦巻く台風の雲・・・。そんな不安と期待をのせて、それでもきらめく陽光の中、俊鷹丸は那覇新港を出航しました。
ページのTOPへ
2.生物調査
Fig.1 MOHT (Matsuda-Oozeki-Hu-Trawl) net.
Fig.2 Now pulling up the MOHT net.
Fig.3 Check of the captured fish.
Fig.4 Leptocephalus of Japanese eel (Anguilla japonica) and Giant mottled eel (A. marmorata).
2.生物調査
 実際の調査で最も中心となったのが、MOHTネットと後述のCTDです。MOHTネットはフレームつきの小型トロールネット(Fig.1)で、傾斜曳きによるサンプリングを行いました。曳網後ウィンチでフレーム部分を船上まで巻き上げてコッドエンドを回収し(Fig.2)、集められたサンプルを回収します(Fig.3静止画Fig.3GIFアニメ)。何も取れていなくてがっかりしたり、クラゲ類やアミ類で満杯になっていてげんなりしたり、しかしその一方、今回の目的であるウナギ類のレプトケパルス幼生(Fig.4)が思いがけない所で入っていて大喜びしたり。この瞬間が一番緊張する瞬間であり、同時に一番楽しみな瞬間でもありました。
 なお一口にレプトケパルスと言っても様々な種類のものがあり、今回の調査ではウナギやアナゴだけでなくウツボなどのレプトケパルスも採集されました。どのレプトも同じような形をしているように思えましたが、ウナギを研究されているM先生によると、「ウナギのレプトは美しい」のだそうです。研究者は各自の研究対象に深い愛情をもっているという事をとてもよく表している一言だと思いました。
ページのTOPへ
3.海洋環境調査
Fig.5 CTD octopus/Multi Sampler.
Fig.6 CTD operators.
3.海洋環境調査
 もう一つの中心作業がCTDによる海洋環境測定です。Fig.5は調査後半の沖ノ鳥島周辺海域で用いられたCTDオクトパス/マルチサンプラー。上部は多筒採水器で下部に小型CTDが付いています。CTDを海中へ降下させ、その後はパソコンの画面を見ながらオペレートを行い水温塩分等を測定しました(Fig.6)。この作業、操作としてはパソコンのモニターを監視して時々水深を確認するだけというなんだか眠くなりそうな作業なのですが、実際にやってみると調査地点によって水温や塩分の鉛直分布は様々に変化し、飽きることなく海流に思いを馳せてしまいました。
ページのTOPへ
4.沖ノ鳥島
Fig.7 Okinotorishima island.
Fig.8 Very calm beautiful sea.
Fig.9 Dolphinfish (Coryphaena hippurus), female, FL56cm. Caught by trolling.
Fig.10 Lancet fish (Alepisaurus ferox), eaten by sharks. Caught by longline fishing.
4.沖ノ鳥島
 前半の東シナ海における生物調査を終えた後、船は沖ノ鳥島へ向かいました。沖ノ鳥島調査の中心人物(私ではない)の日頃の行いがよかったのでしょうか?沖ノ鳥島に着いたとたん海はべた凪快晴、波高0.9mという非常に良い海況になりました(Fig.8静止画Fig.8GIFアニメ)。沖ノ鳥島周辺海域での調査の一番の目的はPDR(高精度音響測深機)による海底地形図の作成です。と言ってもPDRのデータは機械が自動的に記録していくので私の出番はありません。つつがなく測定は終了し、帰港時にはきれいな海底地形図が作成されていました。  また沖ノ鳥島周辺海域では引き縄および延縄による漁獲調査も行われました。しかし、当海域周辺の表層水温は約30℃と非常に高温。甲板員の方曰く、「こんな水温で釣れるわけねぇよ」。その通りでした。様々な漁具漁法を試して頂いていたのですが、結局釣れたのはシイラ(Fig.9)とミズウオ(の頭:Fig.10)のみ。残念です。いつか機会があればリベンジしたいところです。
ページのTOPへ
5.台風のこと
5.台風のこと
 航海中で一番辛かったのは船酔いでした。出航した当初から海上には台風20号があり、これを受けて調査前半の海はうねることうねること。生きた心地がしませんでした。そんな中で普通に食事をとっている方々の三半規管が信じられません。また、この台風が影響を与えたのは私の体調だけではありませんでした。台風の風の影響で海上に警報が出され、船は那覇を出航してすぐに石垣湾へ退避を余儀なくされたのです。気象情報を何度眺めても台風は北上せず、さらには南下までする始末。移動速度も「停滞」としか表示されないほど遅く、本来なら調査をこなしているはずの時間がどんどん無駄に消費されていきます。この間、足りなくなった時間をどこでどう埋め合わせるのか、またどの調査地点を優先させるのかという算段が幾度となく行われ、台風情報を見ては計画を修正するといった状態が続きました。そして待機すること48時間、台風に移動の兆しが見えたこと、そして何よりこれ以上時間が過ぎると最低ラインの調査すらできなくなる可能性が出てきたことから船長が出航を決定しました。調査員一同は私も含めて大喜び。しかし私の船酔い地獄はここから当分続いたのでした・・・。
ページのTOPへ
6.おきゃくさん
Fig.11 A stray homing pigeon on the ship.
6.おきゃくさん
 ところでこの調査中、船には意外な来訪者がありました(Fig.11)。多分台湾から来たのであろうレース鳩です。海の上を飛んでいた鳩にとって船は程よい陸地に思えたのでしょうか?結局、合計3羽もやってきていました。気がつくと下船時にはいなくなっていましたが、呑気に甲板をうろつく鳩の姿にはずいぶん癒されていた気がしています。
ページのTOPへ
7. 調査を終えて
Fig.12 Our research member. Good job on this cruise!
Fig.13 My souvenir, little Indo-Pacific sergeant (Abudefduf vaigiensis).
7. 調査を終えて(Fig12:2レグ調査員一同
 調査を終えて振り返ってみると、今回の乗船は船にいた全ての方々に助けられようやっと乗り切ったようなものでした。甲板作業では何をしていいのか、そもそもどこに立っていてよいのかもわからず右往左往していたり、船酔いという事で一人だけぐったりしていたり。そんな中いろいろと指導してくださった方々、食べられなかった食事の替わりに研究室に夜食を持ってきてくださった司厨の方々をはじめ皆々様に、心から感謝致します。本当にお世話になりました。
 また、今回の調査ではかわいいお土産もできました。石垣島近海で取れたオヤビッチャの幼魚(Fig.13)です。調査が始まったばかりの頃に表層ネットに入った個体ですが、あまりに活きがよかったのでそのまま小鉢で飼育されていました。そして3週間。揺れや気温の変化に耐えきって無事調査終了まで生き延びたこの子を貰い受け、私は家路についたのでした。
 船を降りてからはや一ヶ月、私もこの子も少しは成長しているでしょうか?この子は多分当歳魚。私も現在社会人一年生。世間の荒海(?)はまだまだ先の長い航海になりそうですが、あせらずゆっくり、でもできれば確実に成長していきたい。そう思っているところです。
ページのTOPへ
  本文へ
 

 
(c) Copyright National Research Institute of Fisheries Science, Fisheries Research Agency All rights reserved.