(3)海藻類加工品

 海藻類は古来から加工食品として利用されているが,近年では 微量金属塩や食物繊維源としての海藻に対する認識が深まると ともに,海藻中に含まれる有用成分の特定や作用の解明がすすみ (第1章9(4)参照), 利用への関心が高まっている.
 乾のりについてはその保存性や品質,成分に関する研究1-12)が 多く行われてきた.保存性に対する影響は水分含量よりも水の存在 状態を反映した水分活性(aw)の影響が大きいことや,乾のりの色調と クロロフィルやカロテノイドの安定性と相関,のりに含まれるアス コルビン酸の安定性と保存条件との関係,加工工程における成分変化 などについて調べられている.
 コンブ加工品には,コンブ佃煮,とろろ,塩コンブ,おぼろ,バッテラ, コンブ巻き,酢こんぶ,こぶ茶,菓子コンブ等がある13).コンブ佃煮に ついては,原料コンブの保存条件と吸・脱湿との関係14)や,洗浄に 用いる溶液組成や温度条件等がコンブの吸水率や成分溶出量に及ぼす 影響等について調べられている15-17).このほか,塩コンブの良好な テクスチャーの保持のための乾燥条件や,まぶし粉の配合割合・粒度と 付着性との関係に関する研究,とろろこんぶの吸・脱湿,色調や香味劣化の 防止のための不活性ガス封入包装や脱酸素剤の使用に関する研究例がある. 新規利用法はあまり開発されていないが,コンブエキス18)やドリンクなどの 利用形態の開発が期待されている19)
 ワカメは1970年代より塩蔵ワカメやカットワカメ(湯通しワカメの乾燥品) などの新しい加工により消費量が伸び続けている.ワカメ乾製品の品質保持に 関する研究成果20-23)により,生鮮ワカメに灰を塗布して天日乾燥する灰干し ワカメの保存性の良さは,灰中のアルカリ成分が藻体の酸性化を防ぎクロロフィルの 分解を防止することや,アルギン酸分解酵素活性を抑制して組織の軟化を防止する ことに由来すること,ワカメを水酸化カルシウムによりpHを調節した食塩水や海水で 処理した後に乾燥すると吸水膨潤を抑制し,緑色の顕色と品質保持に効果がある ことなどが明らかとなっている.近年の利用研究例として,ワカメ胞子葉の 調味素材化24)や,海藻麺の加工25)などがある.
 このほかの主要な海藻として,海苔佃煮に用いられるヒトエグサ,青粉に 用いられるアオノリ19),アオサ19), ヒジキ26),近年急激に生産量が伸びたモズク19), 海藻サラダとしての需要の高いトサカノリ19)などが挙げられるが, これらの加工製品化に関する研究報告はほとんどない.
 一方,藻類に含まれる多糖類の分布や定量に関する研究は多く行われている27-34). 近年では,褐藻類に含まれるアルギン酸35)やフコイダン 36),紅藻類に含まれるカラゲナン37),寒天 38)などが保持する生体調節機能等の有用性や,ゲル化性,タンパク反応性, 増粘・分散性等の多用な機能が注目され,これらの食品工業原料としての需要は急増している. すでにゲル化剤,触感改良剤として利用されているが,アルギン酸カルシウム皮膜を利用した人工イクラや 人工フカヒレ等のコピー食品35),高齢者の嚥下を助ける介護食用寒天 38)など,今後もさらに新しい用途が期待される.
(村 田 昌 一)
文献1)土屋靖彦ほか:低温による乾のりの貯蔵試験,日水誌,27,919-933 (1961)
2)朴栄浩ほか:高湿下における干しのり成分の変化-Ⅰ,クロロフィル,カロ チノイドおよびフィコビリン,日水誌,39,1045-1049(1973)
3)朴栄浩ほか:高湿下における干しのり成分の変化-Ⅱ,有機酸組成,日水誌,39,1051-1054 (1973)
4)平田孝ほか:乾のりの変質におよぼす水分,温度の影響,日水誌,47,89-93 (1981)
5)荒木繁ほか:各種水分活性下における乾のり中のアスコルビン酸の変化,日 水誌,48,643-646 (1982)
6)荒木繁ほか:各種水分活性下における乾のり中の色素成分の変化,日水誌,48,647-651 (1982)
7)Falconer,M.E. et al. : Carotene oxidation and off-flavour development in dehydrated carrot, J. Sci. Food Agric., 15, 897-901 (1064)
8)Salwin, H. : Defining minimum moisture contents for dehydrated foods, Food Technol., 13, 594-595 (1959)
9)Lajollo,F. et al. : Reaction at limited water concentration. 2. Cholorophyll degradation. J. Food Sci., 36, 850-853 (1971)
10)吉江由美子ほか:乾のりの加工工程における成分変化,日水誌,60, 125-130(1994)
11)石原良美ほか:水分含有量によるのりの評価,日水誌,60,389(1994)
12)荒木 繁ほか:温水抽出物による焼海苔の呈味性評価,日食工誌,44, 43-437(1997)
13)佐藤照彦:海藻の加工(Ⅰ総論編,Ⅱ各論編),北海道水産試験場,(1982)
14)中川禎人,前重静彦:佃煮用乾燥昆布の吸・脱湿性,日本食品工業学会第28 回大会講演集,p.45 (1981)
15)横屋敬七:養殖マコンブの復水特性とテクスチャーについて,日水誌,47,1637-1641 (1981)
16)中川禎人,前重静彦:昆布成分の水相への溶出動向,日本食品工業学会第29回大会講演集,p.46 (1982)
17)中川禎人,前重静彦:糖類および食塩の佃煮昆布への移行状態,広島食工試研報,16,9-13 (1982)
18)形浦宏一ほか:塩蔵コンブからエタノール抽出したクロロフィル関連化合物の性状とコンブエキスへの利用,日水誌,66, 104-109 (2000)
19)大野正夫,海藻食品の有用成分と食材海藻の展望:フードケミカル,(12)55-58(1999)
20)渡辺忠美,米沢邦夫:わかめ灰干し加工に関する研究-Ⅰ,灰干し処理の品 質保持効果及び藻体,灰中の金属について,徳島県食加工試報告,19,61-66 (1971)
21)渡辺忠美,米沢邦夫:わかめ灰干し加工に関する研究-Ⅱ,改良灰による品質保持効果,徳島食加工試報告,23,32-42 (1975)
22)渡辺忠美,西沢一俊:灰干し及び素干しワカメにおけるアルギン酸リアーゼ 活性の比較研究,徳島食加工試報告,48,237-241 (1982)
23)渡辺忠美,西沢一俊:灰干し処理による藻体軟化防止に関連したワカメアル ギン酸リアーゼの酵素的研究,徳島食加工試報告,48,243ー249 (1978)
24)清陰亮子:ワカメ胞子葉(芽株)を原料とした新食品の開発,平成5年度水産利用加工研究推進全国会議資料,181-184(1993)
25)大迫一史ほか:わかめを用いた海藻麺の加工,平成10年度水産利用加工研究推進全国会議資料,146-149(1998)
26)滝口明秀ほか:ひじき乾燥粉末を用いた新食品の開発,平成元年度水産利用加工研究推進全国会議資料,122-123(1989)
27)佐藤孜郎,丹原敬子:昆布藻体の内・外両層組織の金属組成および多糖類組成,日水誌,46,749-756 (1980)
28)佐藤孜郎ほか:煮熟によるコンブ藻体の多糖類および金属組成ならびにアルギン酸の性状の変動,日水誌,47,429-434 (1981)
29)佐藤信武ほか:紅藻類の粘質多糖類及び緑藻の粗繊維の定量について,平成3年度水産利用加工研究推進全国会議資料,47-50(1991)
30)川崎賢一ほか:カラマツアラビノガラクタンの食品への用途開発,平成4年度水産利用加工研究推進全国会議資料,75-78(1992)
31)本谷益良ほか:養殖マコンブにおけるアルギン酸とそのM/G比およびマンニトールと数種のミネラルの月別変化,日水誌,59, 295-300 (1993)
32)鈴木 健ほか:加熱加工処理による海藻食品の食物繊維の変化,日水誌,59, 1371-1376 (1993)
33)鈴木 健ほか:ヒジキの食物繊維含量と水溶性食物繊維の分子量の季節変動,日水誌, 59, 1633 (1993)
34)吉江由美子ほか:生産地ならびに価格の異なる乾のりの食物繊維および無機 質,日水誌,59, 1763-1768(1993)
35)笠原文善ほか:アルギン酸の特性と利用法, フードケミカル,(12)59-65(1999)
36)酒井武ほか:海藻多糖フコイダン・同オリゴ糖の特性と利用,フードケミカル,(12)66-71(1999)
37)浅井以和夫ほか:カラゲナンの特性と食品・工業への利用,フードケミカル,(12)72-78(1999)
38)松田 朗:寒天の特色と食品への新利用,フードケミカル,(12)79-83(1999)

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