(6)脂質酸化抑制による品質保持1-5) | |||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
近年,生鮮魚介類や加工水産物の輸入が急激に増大しているが, その中にはイカ類のように冷凍で数カ月かけて送られるものや, ペルー産の魚粉のように現地で一年以上放置後輸入されるもの, 最近のサンマやサケ類のように冷凍して出荷調整されるものもある. また,脂肪量の季節変動から漁獲時期を限って製造される水産乾製品は, 周年需要を満たすため低温保存され,出荷まで数カ月以上保存するものもある. しかし,このような保蔵中の化学的変化に対する防御は未だ確立されておらず, 空気による酸化劣化が問題となる. 脂質酸化の原因となるのは光や放射線,金属,熱,酵素等であり, その防止法は,雰囲気を制御する方法と,対象物質内部から保持する方法に 大別される.前者は包装(2章9(3)参照)や低温貯蔵(2章9(2)参照)であり, 原因となる酸素を除去したり,熱を遮断したりする.後者は,抗酸化性物質 (抗酸化剤)やキレート剤を用いる方法で,金属や酸素の作用を阻害したり, 酸素を捕そくしたりする.抗酸化性物質には,ラジカルの発生そのものを 抑制したり,その後の連鎖反応の進行を抑えるものもある. 食品の酸化劣化の抑制のためには合成抗酸化性物質が最も効率的であり, 低濃度,低毒性,無色・無臭・無味,安価である等の理由により,ジブチル ヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が 開発され各種水産食品や餌飼料に用いられてきた.しかし,これらは発がん性が 指摘されて使用が自粛され,天然抗酸化性物質に対する要望が高まっている. 現在,植物や微生物由来の多数の天然抗酸化性物質が見出されている6-11)が, 実用化されているものは少なく,水産物に比較的用いられるのはトコフェロール類 (ビタミンE)やフラボノイド類(茶のカテキン類,ゴマのセサモール誘導体)である. また,シナージストとしてアスコルビン酸もしばしば利用されるが,効果は高くない. 最近水産脂質の酸化安定性に関して,新たな知見が見出されつつある.一例として, 水中に分散した状態のDHAの酸化安定性12,13)が挙げられる.従来の脂質酸化の 研究は主にバルクオイル(抽出単離された油脂)系について行われ,一般に不飽和度の 高い脂質がより速やかに酸化し劣化するとされてきたが,水溶液中に均一に分散した エマルジョン系におけるDHAはリノール酸より酸化され難い.一見化学論の常識と 矛盾しているが,これはそれぞれから生成した脂質過酸化物の極性の相違にあると 説明されている14,15).水分散系等の複合系は複雑なためこれまで基礎的な報告も 少なかったが,今後はこれらについても徐々に解明され,抗酸化性物質や系の制御も, 新たな方向へ発展していくものと期待される. (齋 藤 洋 昭)
問い合わせは ![]() (メールアドレスは不定期に変更されます) |