(1)我が国の漁業生産と水産物流通の動向1-4)

ア 漁業生産
 我が国の総漁業生産量は,1988年に史上最大の1,282万トンを記録したが, その後マイワシ資源量の急激な減少に伴って沖合い漁業漁獲量及び総漁獲量は直線的に 低下し,1998年には668万トンと1950年代後半の水準となった.沖合い漁業の減少と ほぼ期を一にして遠洋漁業及び沿岸漁業も減少に転じている.
 一方,海面養殖業は1980年代後半には130万トンに達し,その後はほぼ安定的に 推移している.養殖生産量が全生産量に占める割合はかき類,のり類が99%,わかめ類が96%, たい類は84%,ぶり類は76%に達するなど,魚種によっては養殖が極めて重要な位置を占めている.

イ 水産物輸入
 水産物輸入量は1961年の輸入制限緩和以降急増し,1975年には輸出量を上回り, 1995年には358万トンと最大の輸入量を記録した.1997年における輸入元国(地域)数は148, 品目数は180以上であり,その形態も多様化している.魚種毎にみると,まぐろ・かじき類, さけ・ます類は依然として増加傾向にあるが,えび類,たら類,ひらめ・かれい類等は減少 傾向にある.水産物の輸入は原魚またはフィレーが一般的であるが,実需者ニーズの変化を 背景に,ウナギ蒲焼きなど一次加工を施した輸入水産物は10万トンを上回り,年々確実に 増加する傾向にある.また,我が国におけるまいわし資源の減少は魚粉の輸入量に大きく 影響し,1980年代後半に魚粉の輸入は急増し,1995年には59万トンに達している.

ウ.水産物の流通の動向5-9)
 上記のように漁業生産量が低迷する一方で養殖生産量は順調に生産を維持し するとともに水産物輸入量も高水準にあり,現在の我が国の水産物に対する根強い需要を 支えているが,活魚流通なども含めて鮮魚に求められる品質はより高度化しており, 水産物に対する品質保持技術が新たに強く求められている.
 また,上記のような多種多様な水産商品の流通が増加したことのほか,コールド チェーン化の進展など流通技術の革新,小売業の業態革新,外食や中食等の業務需要の増大, 産地卸売市場における経営効率化などを背景として,その流通経路も多様化している.従来の 卸売市場を中心とした市場流通に加え,大型量販店等と生産者等との直接取引,食品製造業者に よる直接的な水産物輸入,インターネット取り引き等が日常的に行われ,市場外流通は 拡大する一方にある.
 こうしたなかで,製造物責任法の施行やO-157による食中毒事件等を契機として, 食品の安全性や品質管理に対する要望が高まり,水産物流通の各段階においてもHACCP方式に よる高度な衛生管理の導入が検討され,多様化する流通機構における安全・品質管理体制の 確立が課題となっている.
(中 添 純 一)
文献1)昭和63年度漁業の動向に関する年次報告
2)平成5年度漁業の動向に関する年次報告
3)平成8年度漁業の動向に関する年次報告
4)平成11年度漁業の動向に関する年次報告
5)小野征一朗編:水産物のフードシステム,農林統計協会,pp.1-102(1999)
6)田坂行男:食品加工産業における水産物需要の特性と企業行動-特に中食市場の拡大が水産物流通に与える影響に関連して-,漁業経済研究,39(4),53-80(1995)
7)田坂行男:外食産業における水産物需要の特性と企業行動,漁業経済研究,40(3),1-27(1995)
8)田坂行男:漁協の直販小売事業への取り組みとそのあり方をめぐって-消費者サイドからみた事業課題と可能性-,地域漁業研究,37(1),127-138(1996)
9)田坂行男:スーパーマーケットの水産物仕入・販売政策と水産物流通再編,北日本漁業,24,119-136(1996)

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