(7)タンパク質特性に基づく水産加工品の品質評価

ア.冷凍すり身の品質
 冷凍すり身は生産国・需要国の拡大とともに国際的商品としての共通な品質規格, グレードの表示の確立が急がれており1),1996年から FAO/WHO 合同食品規格CODEX食品規格委員会で冷凍すり身の製造基準,試験法などの検討が 行われている2-4).これに先立ち国内の基準も, 1980年から全国統一方法であった検査基準が改訂された5) .その品質項目にゲル形成能が用いられているが,これは冷凍すり身をねり製品 原料と見なして,得られた最終製品(かまぼこ)の品質(弾力)から原料である冷凍 すり身の品質を逆に判定しようとする考えに基づくものである.これに対し, 冷凍すり身そのものの品質を測定する方法として,筋原繊維のCa-ATPase全活性を測 定する方法6),これをpHスタットで簡便に測定する方法 7),筋原繊維の溶解度による方法 8,9)等が提案されている.一方,特定の加熱ゲル化 条件のみによる評価の不備を補うために,加熱時間に伴うゲル劣化速度定数による評価方法 10)等が提案されるなど,簡易で精度の高いすり身の 品質評価法が強く求められている.また,ミオシンの軽鎖組成による原料魚種判別の 研究例もある11)

イ.その他の加工品の品質
 魚肉ねり製品において,塩ずり肉のゲル化の進行がミオシン重鎖の多量化反応と高い相関を 示すことが見出され12),これを尺度として肉糊のゲル化に 影響する要因を解明するための研究が多数行われた(第3章(8)2参照).これに基づくねり製品 貯蔵中の品質変化の検討例13)や,加工機械の改良,開発例もある.
 一方,塩蔵品や塩乾品14-16)の製造工程においても同様な多量化反応が 起こることが明らかにされ,透明感や弾力などの肉質との関連が見出されている17). また,エクストルーダー組織化物,超高圧製品,ジュール熱によるゲル化製品,油ちょう品等についても同様に タンパク質化学的解析がなされ,製品の品質との関係が考察されている(第3章(8)7参照).
このように水産加工の各種分野において,タンパク質化学的な研究のアプローチが製品の品質判定や 品質の規格化,生産工程の管理に役立っている.
(岡 崎 恵美子)
文献1)伊藤克宏:冷凍すり身の国際食品規格化の動向,冷凍,67巻781号,17-22(1992)
2)阿部和夫:FAO/WHO合同食品企画委員会第21回魚類水産製品規格部会について,冷凍,70巻807号,59-62(1995)
3)森光國:国際食品規格会議(FAO/WHO CODEX)第22回魚類及び水産製品部会の概要-水産缶詰取扱規範にHACCPと欠点チェックポイント追加-,缶詰 報,75(9),27-34(1996)
4)高鳥直樹:国際食品規格と日本との関わり合い,魚類・水産製品部会,冷凍,75巻50-54(2000)
5)西岡不二男:冷凍すり身の品質検査基準,日水誌,60,281-285(1994)
6)加藤 登ほか:スケトウダラ冷凍すり身の一新品質判定法ー冷凍すり身筋原繊維ATPase活性とかまぼこ形成能の関係,日水誌,45,1027-1032(1979)
7)今野久仁彦ほか:phスタット法によるATPase活性測定とすり身,平成12年度水産利用加工研究推進全国会議資料,143-146(2000)
8)古関宏明ほか:コイ筋原繊維加熱変性の敏感な指標としてのミオシン抽出性の低下. 日水誌, 59, 515-518(1993)
9)Kunihiko Konno, et.al: Early structural changes in myosin rod upon heating of carp myofibrils. J. Agric. Food Chem., 48, 4905-4909(2000)
10)福田耕一ほか:冷凍すり身の品質評価指標としての坐り温度帯におけるゲル劣化速度の検討,日食工誌,41,51-57(1994)
11)市川 寿:ミオシン軽鎖の種特異性を利用した魚種鑑別ー尿素・SDS二次元電気泳動法ー,魚肉ソーセージ,226,13-20(1993)
12)沼倉忠弘:坐りによる肉糊のゲル形成とミオシンの交差結合反応,日水誌,51,1559-1565(1985)
13)Noboru Kato, et.al.: Quality of Frozen Seafood Analog Such as Crab Leg Type and Scallop Adductor Type Products. Nippon Suisan Gakkaishi, 59, 815-820(1993)
14)伊藤 剛ほか:スケトウダラ筋肉の塩漬中に起こる筋原繊維タンパク質の生化学的変化,日本水産学会誌56(4),687-693(1990)
15)伊藤 剛ほか:スケトウダラ塩漬肉の加熱乾燥および加熱中に起こる筋原繊維タンパク質の変化,日本水産学会誌56(12),2053-2060(1990)
16)丹保岳人ほか:塩漬によって起こる魚肉中の筋原繊維タンパク質の変化,日本水産学会誌58(4),677-683(1992)
17)北田長義:塩干品中の挙動,水産加工とタンパク質の変性制御(新井健一編),恒星社厚生閣,pp.81-88(1991)

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