(2)成分による品質評価      

 水産物には魚類,貝類,介類,藻類と動物から植物まで含まれる.また,特に魚介類は 畜産物と比較して変性が速いにも関わらず生で食されることが多い.近年養殖生産物が 増加したが,養殖を含めて野生生物を生産の対象としており,育種はほとんど対象と なっていない.このため,品質を評価するための標準種はない.
 イカ類1)のようにその可食部成分の変化が少ない種もあるが,多くは同じ種においても 性成熟,主な餌料及び摂餌状態により体成分の著しい変化があり,この体成分の変化は 生鮮時はもとより加工製品にも反映される2,3)
 マイワシ,シロサケ,マサバ,マアジ,カタクチイワシについては,季節,サイズ, 海域,部位別に詳細な成分分析が行われた4).また,マサバ,マアジについては大分県の 特定海域と他の海域で漁獲されるものが詳細に比較研究されている5)
 養殖魚においては飼育環境及び飼餌料の影響を大きく受けるため,海産魚及び淡水魚ともに 筋原繊維の強度,脂質の含量及び組成,脂肪酸組成,呈味成分である遊離アミノ酸などが天然魚 及び飼育法で異なる6-15)
 ニジマス及びアユの染色体操作を行った3倍体魚が生産されているが,これらの成分特性に ついても研究が行われている16,17)
 海藻類の品質評価指標はその用途により異なる.海藻のアルギン酸などの多糖類, 無機質であるカリウム,ヨウ素などが種及び季節により変化することは既に知られている18) .機能性成分利用等,新たな用途が開発されることにより新たな評価技術の開発が必要となる.
 原料の魚介藻類中に含まれる成分がその利用価値を左右することがある19)
 アメリカオオアカイカにおいては可食部中に塩化アンモニウムが多量に含まれ異味を生じるが 特に大型魚で著しい20).グチの石油臭21), ウニの苦味22),アブラソコムツやハダカイワシなどのワックス 23),原因は解明されていないが異味を呈するカツオ23)などが 知られている.また,サケも河川に回帰したものはプロテアーゼ活性が上昇しているため,筋肉の品質の低下を 招きやすい20)
 自然毒としてはフグ毒,シガテラ毒が古くから知られていたが,有毒プランクトンに起因する 二枚貝の麻痺性貝毒,下痢性貝毒,記憶喪失性貝毒,紅藻オゴノリでのプロスタグランジン生成など 新たな自然毒が明らかとなった25)
 水産物にも水銀,カドミウム,砒素等の有害元素が含まれていることが知られている. 含有量が少ないもの又は毒性の低い形態で存在するものについては問題とされていない. 人為的汚染によるもの又はホタテガイ中腸腺におけるカドミウムのように高濃度のものは 食用として不適であり,処理にも困難を生じることがある26)
(中 添 純 一)
文献1)中添純一:イカの一般成分,奥積昌世,藤井建夫編,イカの栄養・機能成分,成山堂書店,東京,10-22,(2000)
2)須山三千三,鴻巣章二編:水産食品学,恒星社厚生閣,東京(1987)
3)山中英明,田中宗彦著:水産物の利用,成山堂書店,東京(1999)
4)水産庁研究部研究課:沿岸重要魚種の栄養成分の分布及び含量変動,魚介類有効栄養成分利用技術開発研究資料集(1988)
5)望月聡:関さば・関あじ物語,坂口守彦ほか著,魚のおいしさの秘密,はまの出版,東京(1999)
6)野田宏行:ニジマスの肉質改善について,養殖,No.266,48-53(1985)
7)辻村明夫,明楽公男:アユの品質改善について,養殖,No.266,54-57(1985)
8)國崎直道:養殖マアジの肉質成分と問題点,養殖,No.280,106-109(1987)
9)山本義和・伊達かおる:養殖ハマチの栄養成分の成長・季節による変動,養殖,No.306,105-107(1989)
10)桑原秀俊:ハマチの肉質改善について,養殖,No.265,52-55(1985)
11)久原俊之:養殖マダイの肉質改善について,養殖,No.265,56-59(1985)
12)田中健二ほか:養殖ニホンウナギにおける品質特性の季節変動,水産増殖,43(4),499-509(1995)
13)槌本六良:運動飼育による肉質改善,養殖,No.466,44-46(2000)
14)塩満捷夫:栄養強化による肉質改善プラン,養殖,No.466,48-51(2000)
15)村田修:育種バイテクから見た肉質改善,養殖,No.466,52-56(2000)
16)江平重男,丸岡淳:倍数体魚の貯蔵性-ニジマス及びアユ氷蔵中の鮮度低下,脂質酸化及び筋原繊維タンパク質の変性,中央水産研究所報告,2,1-4(1991)
17)中添純一:養殖魚の品質と価格差,養殖,No.466,58-61(2000)
18)渡辺武彦ほか:三倍体アユの脂質, 東海区水産研究所研究報告書, No.126, 49-59(1988)
19)Chapman, V.J.:Seaweeds and their uses, Methuen & Co. LTD., London(1970)
21)飯田遙ほか:カルフォルニア産グチからのブロモフェノールの検出,中央水産研究所報告,9,1-10(1997)
24)山澤正勝ほか:カツオ異常肉”イシガツオ”の性状調査,中央水産研究所報告,5,129-142(1993)
22)村田裕子ほか:バフンウニ生殖腺の苦味の発現頻度,日本水産学会誌,63(3),477-478(1998)
23)日本水産学会出版委員会編:海洋動物の非グリセリド脂質,恒星社厚生閣,東京(1982)
20)水産庁漁政部水産加工課:新たな水産加工原料を求めて(1998)
25)塩見一雄:自然毒,日本水産学会出版委員会編,現代の水産学,恒星社厚生閣,東京(1994)
26)塩見一雄:有害元素,日本水産学会出版委員会編,現代の水産学,恒星社厚生閣,東京(1994)

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