辞書を引くと、「本来上等なものは、たとえ腐ってもその品格を失わない」とあります。これは、日本人が鯛に抱く尊敬に似た感情と、鯛の鮮度が長持ちする特性をこの諺に込めたものでしょう。では、本当に鯛は鮮度低下が他の魚より遅いのでしょうか?
魚の鮮度評価法「K値」という方法があります。これは日本の水産化学の研究者が開発した方法で、魚の生きの良さを数字であらわすことができます。魚肉にはATP(アデノシン3リン酸)というエネルギー物質がありますが、これは魚の死後、次の様な順番で整然と分解を始めます。
- ATP(アデノシン3リン酸)
- →ADP(アデノシン2リン酸)
- →AMP(アデノシン1リン酸)
- →IMP(イノシン酸)
- →HxR(イノシン)
- →Hx(ヒポキサンチン)
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この分解の速さが鮮度の低下とほぼ一致するのです。そこで「K値」の計算式を次の様に決めました。パーセントで表してあり、数字が小さいほど鮮度が良いことになります。
K値=(HxR+Hx)/(ATP+ADP+AMP+IMP+HxR+Hx)×100(%)
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色々な魚のK値(図)を比べてみると、鮮度低下の速いマダラは急激にK値が上がりますが、鯛は驚異的に日持ちが良く、8日後でも"刺身ライン"(20%以下)を保っています。K値の低さはそれだけイノシン酸(旨味成分)が多いことを意味し、鯛の美味しさの秘密もこの辺に理由があるといえます。
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