水産調査豫察報告  
農商務省, 1889-1893(明治22-26)年, 1-4巻


 明治時代に農商務省が全国の水産事情を調査した報告書です。
 明治21年、農商務省水産局は水産業の発展のために学理研究に基づく水産調査を計画し調査を開始しました。全国を5海区に分け、それぞれの海区を豫察調査と本調査の2方法で調査する計画で、まず豫察調査から始められました。調査を本調査と予察調査に分けた理由は、先に予察調査をして、各地における水産物の状態、漁業の状勢等を把握し、本調査の目的とすべき事物を決定する資料にしようとしたもので、予察調査の結果に基づいて本調査の事項を決定するためでした。
 そのため、豫察調査では、当時の第一人者たちが現地に長期滞在し綿密に調査しました。調査の事項も、海岸の地勢、海底の地形、地質、潮流、環境から漁獲される魚の種類、生態、漁場、漁獲方法、利用方法など極めて多面的なものでした。
 海区の分け方は、本書第一巻巻首にある「水産調査海区之図」によると、西南海区(九州四国以南)、内海区(瀬戸内海)、東海区(本州太平洋側)、北海区(本州日本海側)、東北海区(北海道以北)の5海区でした。農商務省は、西南海区(第1巻)、内海区(第2巻)、東海区(第3巻)、北海区(第4巻)の豫察調査を実施し、『水産調査豫察報告』としてまとめました。東北海区(北海道以北)は、北海道庁内務部水産課が明治22-26年にかけて調査を行い、『北海道水産予察調査報告』『北海道水産調査報告』を刊行しています。
 ところで、水産局は明治23年に廃止となり、農務局水産課となりました。水産課となった後も豫察調査は継続して実施されましたが、本調査への取り組みは明治24年に「水産豫察調査は略々完了せしを以て将来本調査に着手すべき順序方法を定め本年十月東京市麹町区道三町本省構内に仮試験所を設け先づ東京近海の重要魚介の種類、産卵期等を実験するの目的を以て解剖的調査に着手し又化学的の研究をなさんが為め分析室を仮設し食塩及魚介海藻等の成分検定に着手」(『大日本水産史』p.99)した程度で、計画当初のような壮大な調査とは程遠いものとなってしまったようです。明治26年農商務省内に水産調査所が新設され水産調査事業は再開されました。『明治二十六年度上半期水産調査成蹟摘要報告』によると、幾つかの調査事項は仮試験所から引き継いでいるとあり、ある程度は豫察調査がベースとなっているようですが、「水産調査所官制」には豫察調査との関係は書かれていないため、これが本調査にあたるのかあたらないのかはさらなる調査が必要と思われます。

●参考文献
『大日本水産史』片山房吉著 農業と水産社 昭和12年刊
『水産二十年史』水産新報社 1932年刊
『明治二十六年度上半期水産調査成蹟摘要報告』農商務省
『大日本水産会報 第130号』大日本水産会 明治26年4月刊