中央水研ニュースNo.27(平成13年11月発行)掲載

【研究情報】
外来魚コクチバスの生態把握と繁殖抑制技術開発の研究
中村 智幸

 現在,内水面利用部が中心となって,外来の淡水魚「コクチバス」の生態把握と駆除技術開発の研 究を行っています。これは,行政特別研究「外来魚コクチバスの生態学的研究及び繁殖抑制技術の開 発」として行われているのもので,期間は平成12―14年の3カ年です。
 コクチバスMicropterus dolomieuはサンフイッシュ科に属する淡水魚で,原産地は北アメリカ大陸 です。よく耳にするブラックバス(オオクチバスMicropterus salmoides)とは近縁種です。コクチ バスは1925年にオオクチバスとともに神奈川県の芦ノ湖に持ち込まれたといわれています。オオクチ バスは芦ノ湖に定着し,その後日本各地に生息域を拡大しましたが,コクチバスは芦ノ湖には定着し なかったようです。しかし,1990年代はじめに福島県の檜原湖,長野県の野尻湖,木崎湖であいつい で見つかり,現在では北海道から鹿児島に至るほとんどの都道府県で生息が確認されています。生息 域拡大の原因は定かではありませんが,遊漁者等による密放流の可能性が高いと考えられます。その ため,多くの都道府県では内水面漁業調整規則に移殖禁止の条項を設けています。
 オオクチバスと同様に,コクチバスも魚やエビ・カニといった水生動物を好んで食べます。ただし ,オオクチバスがおもに湖沼に生息するのに対して,コクチバスは湖沼だけでなく,河川でも生息で きます。また,オオクチバスに比べて冷水に対する適応性も高いといわれています。オオクチバス同 様,コクチバスの生態研究は原産地の北アメリカでは歴史が古く,研究成果は多数公表されています 。しかし,淡水魚は他の国に移入された場合,原産地とは異なる環境下で生態的特性を変化させるこ とがあるので,北アメリカでの研究結果をそのまま日本に適用することはできません。 つまり,コクチバスは我が国の内水面漁業や河川・湖沼の生態系に著しい悪影響を及ぼすおそれがあ るため,日本における生態的特性の解明と繁殖抑制技術の開発が急務になっているわけです。
 本研究は内水面利用部だけでなく他の機関と共同で行っています。参加研究機関は養殖研究所日光 支所,水産工学研究所,さけ・ます資源管理センター,長野県水産試験場,東京大学海洋研究所です。  内水面利用部では,基礎生態の把握を目的に,河川湖沼における繁殖生態,食性の解明,アユ,ウ グイ等温水魚に及ぼす影響の実験的解析,卵や仔稚魚の生残様式の解明に関する研究を行っています。 また,卵や仔稚魚の段階で駆除する技術開発研究も行っています。
 養殖研究所日光支所では,フェロモン等の誘因物質による効果的な集魚技術の開発に取り組んでい ます。
 水産工学研究所では,河川湖沼における網漁具等を利用した捕獲技術の開発に取り組んでいます。
 さけ・ます資源管理センターでは,北海道や高冷地での生息域拡大を視野に入れ,サケ科魚類等冷 水性魚類に及ぼす影響の実験的解析に取り組んでいます。
 長野県水産試験場では,繁殖抑制技術の実地評価として,産卵床の形成時期,産卵環境を明らかに するとともに,産卵床の破壊,産卵親魚の駆除実験も行っています。
 東京大学海洋研究所では,数理シミュレーションによる個体群管理技術の検討と生態系への影響評 価に取り組んでいます。
 このように,多岐にわたる専門集団が研究を続けています。3カ年を終わった段階で,生態把握と 繁殖抑制技術の開発という目標を達成できるようにエネルギーを結集していきます。

(内水面利用部魚類生態研究室主任研究官)


図.外来淡水魚コクチバスMioropterus dolomieu


nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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