中央水産研究所
中央水研ニュースNo.25(2000(H12).12発行)掲載

【研究情報】
海区水産業研究部の紹介
Coastal Fisheries and Aquaculture Division
正木康昭

 海区水産業研究部は、「黒潮域の増養殖対象魚種であるヒラメ、アサリその他の水産生物の資源維持 増進、生理、生態及び育種、対象水域の環境収容力、資源とその管理、及び水産業に関する技術上の調 査・試験研究を行う」と組織細目で定められています。換言すれば、「黒潮沿岸域における水産業の振 興に貢献する調査研究」を行うことです。
 昭和39年3月に水産庁東海区水産研究所(荒崎庁舎)が開設され、増殖部と水質部が新設されました 。昭和54年3月に養殖研究所の創設に伴い、東海区水産研究所増殖部が廃止され、さらに、平成元年 5月に水質部が環境保全部に組織替えとなり、庁舎名も横須賀庁舎と改名されました。これまで我が国 の太平洋中部沿岸域における資源研究は、沖合域の浮き魚に重点が置かれていました。増殖部が廃止さ れてからの約20年間、太平洋中部沿岸域における資源・培養研究に対する中央水産研究所としての勢 力傾注は十分ではありませんでした。この背景を受けて、平成10年10月1日に水産研究所の組織改 編が行われ、中央水産研究所の横須賀庁舎に「海区水産業研究部」が新設され、「資源培養」、「沿岸 資源」の研究室の設置により、資源・培養研究が復活しました。さらに、漁業、養殖、増殖、漁場利用 、その他の水産業に関する技術上の調査研究部門として「海区産業研究室」が設けられました。現在、 部が新設されて2年余となりましたが、「新居」に例えれば、住所案内、内装工事、調度品、ライフラ インの緊急整備が終わり、何とか寝食できる状態にあります。
 「資源培養研究室(2名)」と「沿岸資源研究室(3名)」は、”添加資源を含めた沿岸資源の評価・管 理技術の開発”の課題の下、人工資源と天然資源を合わせた沿岸資源の管理・利用モデルの開発と栽培 資源に対する評価・管理手法の開発に2室共同して取り組んでいます。「海区産業研究室(2名)」は、” 地域資源・環境の特性解明と地域経済における活用手法の確立”の課題の下、地域特産種等の資源活用 のための特性調査と新たな利用に向けた活魚輸送・蓄養等の技術開発や市場流通に関する基盤的研究を 進めています。
 具体的には、「魚類の成体型組織の形成機構」、「資源動態解析のためのイセエビの生理・生態特性 の解明」、「有用二枚貝の好適餌料環境と摂餌生態の解明」、「ヒラメの加入過程における成長・生残 特性の解明」、「ヒラメ人工種苗の天然資源への添加率推定法の開発」、「太平洋中・南部海域におけ るヒラメの資源評価の高度化」、「太平洋中部海域におけるマダイの資源評価の高度化」、「太平洋南 部海域におけるマダイの資源評価の高度化」、「加入機構を考慮した南方系あわび類の資源管理技術の 開発」、「アワビ増殖場が周辺海域の低次生産に与える影響に関する基礎調査」、「マアナゴ稚仔魚の 沿岸域への加入過程における栄養生理学的特性の解明」、「蓄・養殖および出荷条件が魚の品質と価格 に与える影響」、「兼業遊漁船の沿岸漁場利用実態の解明」、「揮発性含硫化合物による水質改善評価 」の14課題で調査・研究を推進しています。
これら3研究室は組織細目により個別の業務が定められ、この付託に応えるべく調査研究の深化に当 たっています。このような「縦型」の研究推進は、往々にして、「木を見て森を見ず」になりがちです 。海区水産業研究部では、「黒潮沿岸域の水産業の振興」という「出口」を明確にし、個々の研究がこ れに収斂するように課題設定時から意識的に行ってまいりました。さらに、各研究室の研究上の壁を低 くし、室間の連携・協力を密にする「横型」の運営をしています。織物に例えるなら、従来の組織機構 上の研究は「縦糸」であり、糸の一端を堅く結び合わせてもそれにぶら下がる各糸は暖簾のように自由 に動きかねません。そこに「横糸」を入れることにより「布地」となり、乱れることなく整然と目的の 方向に揃います。このような運営により、目的とする使命を効率よく達成できるものと考えています。 今後の調査研究の成果をご期待下さい。

(海区水産業研究部長)


Yasuaki Masaki
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