中央水研ニュースNo.25(2000(H12).12発行)掲載

【研究情報】
三宅島火山活動に伴う漁場環境調査(第1次)
渡辺 洋

 本年6月26日、水産庁より三宅島雄山に関する緊急火山情報が発信されたことに関連し、できるだ けの対応をするよう指示があった。このことは、本年3月末に起こった有珠山噴火の対応と同じであり 、直ちに関係者が召集された。その結果中央水研内に所長を委員長にした「三宅島噴火対策委員会」が 設置され、事後影響調査に重点をおいた具体的調査計画が提起された。その後、東京都水産試験場(都 水試)とどのような調査が必要かを協議した結果都水試が磯根漁場調査を、中央水研が三宅島西方大野 原漁場を中心にした沖合漁場調査を担当することとなり、生物生態部と海洋生産部とが蒼鷹丸による調 査実施計画を作成した。すなわち、CTD、ADCP、超音波深度計、EPCS、ノルパックネット、 ニュースト ンネット、ROV(水中ロボットカメラ)及び釣り等により、調査海域における海洋環境変化についての 観測を行うとともに、カタクチイワシ、サバ類等の仔稚魚の定量採集およびその他の魚類についての捕 獲を行い、火山活動および群発地震等が海洋および漁場としての環境に与える影響と魚類等に及ぼす影 響についてを、緊急的に3日間の調査航海で実施することとなった。
 調査船蒼鷹丸は調査員5名を乗せ7月11日9時に出港した。13時40分に最初の観測点における 調査を開始し、21時頃まで定点調査(ST.1~4)を、21時半から約1時間釣り調査(F-1)を行った。 その後夜半から翌12日朝にかけて定点調査(ST.5~9)を行った後、大野原島周辺海域にて9時から 昼頃までROV及び釣り調査(F-2)を行った。続いて夕刻まで定点調査(ST.10~12)を行った後、ROV観測 のため三宅島北東方の浅場に移動し、18時半から22時まで釣りを含めた観測調査(F-3)を行った。 その後深夜から翌13日未明にかけて予定していた残りの定点調査(ST.13~14)を行い、朝4時すべ ての調査予定を終了し帰途についた。航跡を下図に示した。
 調査結果としては、海洋環境に関しては、黒潮は八丈島の南を迂回して伊豆諸島域の東方141°E付近 を北上する流路であり、調査海域は黒潮内測域に当たり流速が100cm/sを越えることはなかった。 CTDの所定層水温を三宅島周辺の沿岸定線観測の水温時系列と比較したところ,各層とも全体的に定線 の平均水温に比べて低くかった。また、溶存酸素、栄養塩、植物プランクトン色素のクロロフィルa等 について分析した。卵稚仔魚調査結果においては、ニューストンネットではカタクチイワシ、トビウオ 類とも多く採集され、産卵・孵化が継続していると推定された。ノルパックネットではカタクチイワシ 仔魚の出現は活発であった。
 これらの調査結果から、火山活動・地震活動と結びつくような物理・化学・生物的な所見は明確に認 められなかった。ただし、現在のような地震の継続や噴火による降灰、河川からの灰の流出およびその 他の泥流による堆積等は水産生物にとって何らかの影響を及ぼす可能性があり、今後とも同様の調査を 継続する必要があると考えた。
本調査航海は三宅島の火山活動に対応するための緊急な行動であったため日数も3日間と短かかった が、時化ることもなく当初の予定をすべて行うことができた。なお、三宅島及び神津島の間を航海中に 度々地震に遭遇した。その際船においても異常な振動を強く感じたことが印象として残った。

(生物生態部長)


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