中央水研ニュースNo.20(平成10年4月発行)掲載

【研究情報】
沖縄型海洋牧場の創造・支援に関する養殖技術開発調査に参加して
田坂 行男

 経営経済部消費流通研究室では、平成9年度事業 として「沖縄型海洋牧場の創造・支援に関する養殖 技術開発調査」という事業に参加しています。この 事業は沖縄特別振興調査費に関わる3つの水産庁要 請事業の1つで、目下民間コンサルタント会社との 二人三脚で事業を実施しています。調査研究結果は 平成10年3月に沖縄開発庁を通じて総務庁内閣内 政審議室に報告することになっていますが、ここで は研究調査事業の内容とその背景を紹介したいと思 います。

1.新魚種「スギ」の市場性評価と開発条件の解明
   沖縄県の漁業生産量は約4万トンであり、このう ち6割近い量が県外に移出されています。一方、県 内需要を満たすために1万9,000トンの移入と 5,000トンの輸入が行われていて、県外移入魚と輸 入魚にかなり依存した状況が見られます。スーパー マーケットでは県産魚の取扱量が少なく、県内水産 業の販路開拓姿勢が問われています。この事業では このような状況にある沖縄水産業の振興を図ってい くためにいくつかの調査事業が組まれています。沖 縄養殖業界において導入が検討されている新魚種 「スギ」の市場性評価と開発条件の解明もそのうち の1つです。沖縄では亜熱帯という立地環境を生か した養殖産地の創出が目指されていますが、何を対 象として産地振興を図るかについてはまだ統一され た考え方が示されていません。そうした中で注目さ れつつあるのが「スギ」の養殖です。体長が1.5メー トルに達するスギは成長が速いうえにカンパチに似 た白身で小売業者の評価も高いと言われ、養殖業界 の期待は大きいものがあります。当初は中国からの 種苗調達が考えられてきましたが、平成8年からは 県水産試験場でも稚魚生産に成功し、9年には出荷 サイズにまで育成させています。ただし、養殖して も市場における身質評価、価格評価はまだ行われて おらず、養殖の採算性も未知の状態にあります。
 そこで、本調査研究では、東京と大阪にある和食 居酒屋と西洋居酒屋、沖縄本島にある沖縄料理屋と ホテルに協力してもらい、「スギ」を使ったレシピ 開発を行っています。その際、開発されたレシピの 提供価格とメニュー構成上どのような位置づけにな る商品であるかを念頭に、仕入価格限界、仕入条 件、及び仕入頻度を提示してもらう予定です。調査 ではさらに、最近の取引環境を加味した上で沖縄養 殖場に求められる出荷価格水準を見極めていく予定 です。今のところ出荷価格が市場評価に比べてやや 高く、産地に対して生産・出荷コストの引き下げ努 力が求められることになりそうです。

2.沖縄養殖クルマエビの市場競争力評価
 日本は世界の中で最もエビを食べる国民です。そ の需要を満たすために、国内各地でエビの養殖が行 われると共に、世界各地から様々なエビ類が輸入さ れています。しかし、土地条件や生産技術、出荷環 境等を背景として産地の市場競争力は変化します。 台湾の養殖産地がウィルスの発生で崩壊し、それに 替わって沖縄県が新興産地として台頭してきたこと などはその良い例です。現在沖縄で生産される養殖 クルマエビは増加の一途にあり、大都市市場におい て高い市場占有率(特に3月から5月まで)を誇っ ています。本土にある旧来のクルマエビ養殖産地が ウィルス対策で混迷を深めているときにあっても完 全築堤方式で養殖している沖縄の養殖場ではウィル ス対策が講じやすく、高い競争力を持っているとの 評価も見られます。しかし、国内需要が多様化、細 分化しつつある今日、中央卸売市場への委託出荷だ けに依存してきた沖縄クルマエビ業界が今後とも同 様の市場競争力を維持していけるかは議論があると ころです。ましてや国内景気の低迷が長期化し、今 後とも大幅な需要回復は望めないとの見通しがなさ れる中、沖縄クルマエビ業界では「他産地との競合 から県内競合へ」の認識が高まり、供給過剰時代に おける産地振興策のあり方が問われようとしていま す。また、県内で生産されているクルマエビはほと んど県内流通しておらず、県内消費とは隔たった生 産が行われています。
 そこで、本調査研究では、沖縄県内で着業してい るクルマエビ養殖経営体の生産・経営状況を把握す るとともに、出荷及び販路開拓上の課題の解明を行 うことを目的として計画を立案し、実査を行ってい ます。調査では沖縄県内のほか熊本県天草地域、鹿 児島県奄美大島・種子島地域の実態調査を行うとと もに、築地市場における入荷データの分析、エビ問 屋の買付行動分析も合わせて実施の予定です。

3.沖縄県内における水産物流通の実態とこれから の流通整備課題に関する検討
 沖縄は豚肉文化と言われることが多いようです。 しかし、今日の沖縄では豚肉をはじめとする肉の消 費も多いが魚介類の消費も多くなっています。特に 刺身に対する需要は高く、刺身屋とよばれる鮮魚店 が地域密着型の経営を行っています。ただし、最近 ではスーパーマーケットの進出が著しく、県民の買 物行動も変化してきています。スーパーマーケット では県産魚の供給が不安定なために県外から全国流 通している魚介類を仕入れることが多く、県産魚の 市場は輸入魚を含めた県外魚に奪取される構造が見 られます。
 そこで、本調査研究では、まず県民を対象とした 水産物購入実態調査を実施することによって県民が 県産魚に対してどのような評価を下しているかを明 らかにすることにしました。次いで石垣島、宮古島 といった島嶼部で漁獲された水産物がどのような方 法で島内流通し、また沖縄本島へ搬出されているか を把握することにより、県産魚の安定供給上、物流 面での問題が存在するか否かを解明することにして います。さらに従来から県内で行われている水産物 取引の特徴とそうした取引システムが形成された背 景を研究するとともに、スーパーマーケットが県産 魚をより多く仕入れていく際の不都合な点を見極め たいと考えています。調査研究事業の結果は、改め て報告したいと思います。

(経営経済部消費流通研究室長)
参考写真
  1. 活クルマエビの出荷
  2. 近海カツオの水揚げ風景

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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