中央水研ニュースNo.20(平成10年4月発行)掲載

【情報の発信と交流】
スウェーデン国ウメオ大学及びエーテボリ大学との研究交流に参加して
角埜 彰

 平成9年10月の9日から23日まで、魚類の組織 片培養法及び単離細胞の初代培養法を確立し、生理 活性物質の産生及びその遺伝子発現を指標として汚 染物質の影響を調べることを目的とした「魚類培養 組織・細胞を用いた水域環境汚染物質の影響評価」 (科学技術振興調整費)に基づき、清水生理障害研究 室長、池田研究員及び私、計3名が参加した汚染物 質とバイオマーカーに関する情報交換のために行っ たスウェーデン国ウメオ大学及びエーテボリ大学と の研究交流について報告する。
 ストックフォルムから北北東約500㎞、ウーメ川河 ロボスニア湾に面し、北極圏まで約300㎞、病院と 大学だけの町ウメオにウメオ大学はある。キャンパ スの中にはマッシュルームの採れる森林地帯が広 がっている。ウメオ大学の共同研究者であるPer- Erik Olsson助教授から彼の所属する動物生理学研 究室の研究内容や大学施設について説明を受けた。 ここでは、ゼブラフィッシュ、ニジマス、さらに、 ニジマスから得た培養細胞であるRTG-2等を用いて メタロチオネインの研究を行っていた。特に、メタ ロチオネインを合成の初期段階で高感度に検出する ために、新しい検出法であるDIG-system(植物由来 のステロイドであるジゴキシゲニンでラベルしたプ ローブを用いて抗原抗体反応により目的のDNA,RNA 及びオリゴヌクレオチドを検出する実験系)を用い たメタロチオネインのm-RNAの検出手法を詳細に説 明してもらった。ウメオが面するボスニア湾では、 多くの河川が流入しているためにこの水は海水より はむしろ淡水に近い。従って、この付近では海産魚 が生息していないとのことであった。また、ウメオ は亜寒帯多雨気候に属し冬季は雪と氷に閉ざされて いるため、ここでの研究はフィールドワークよりは むしろ研究室内での分析や淡水魚の飼育実験などが 主となっているようであった。
 一方、エーテボリ大学は、ストックフォルムの西南 西約400㎞、カテガト海峡をはさんでデンマークに 接し、ヴェーネルン湖に源を発するエータ川河口域 に広がる交通の要衝エーテボリ市にある。ここは西 岸海洋性気候であり、海は凍ることはなく、この付 近の海域からタラ類、カレイ類、イチョウガニ、ア カザエビの類(日本のアカザエビよりハサミがやや 大きい)、河川及び湖沼ではニジマス、ブラウント ラウト、パイク等の魚が漁獲される。動物生理学研 究室のLas Forlin教授から説明を受けたが、ここ では飼育施設がないため(訪問時には大改装工事を 行っており飼育施設も整備されるとのこと)、 フィールドワークが中心であり、海産魚のタラ、カ レイから淡水魚ではパイク、ニジマス等を採取また は購入して、近年問題となっている環境ホルモン、 カドミウム等の汚染物質の影響や魚類の物質代謝な ど多岐にわたる分野を研究対象としているとのこと であった。また、当研究室はウプサラ大学と共同 で、魚類の血液成分及び肝臓中の薬物代謝酵素であ るチトクロームP-450のm-RNAを指標として影響評 価する手法について研究を行っており、エーテボリ 周辺の河川及び湖沼に生息あるいはそこでケージに 入れて飼育したニジマス、パイク等にこの手法を適 用した結果について説明を受けるとともに意見交換 を行った。特に、この付近の河川湖沼のカドミウム 汚染は、ニッケル・カドミウム電池の投棄に原因が あり、また、この汚染は水中濃度が数ppmのオー ダーで広範囲に広がっていることを知った。
 ウメオ大学及びエーテボリ大学の2ヶ所を訪問した 結果、ボスニア湾からバルト海に面した北東部は淡 水域であるため、ウメオの研究対象魚はサケ・マス 類となり、一方、南西部はカテガト海峡を経て北海 に面しており、エーテボリの対象魚はマス類から海 産魚であるタラ類にまで及んでいることがわかっ た。このことからスウェーデンでは、実験魚が地域 特性を反映していると思われた。また、スウェーデ ンでは河川湖沼のカドミウム汚染がかなり深刻であ り、この水域汚染は重要な研究分野であることが理 解できた。汚染物質の影響評価は、生死によるもの から今後はその影響機構の解明につながる分子生物 学的手法の積極的な導入が必要であり、これに関す る多くの情報を得ることができた。
(環境保全部生理障害研究室)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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