中央水研ニュースNo.20(平成10年4月発行)掲載

【研究調整】
平成9年度伊勢・三河湾漁場生産カモデル開発基礎調査検討会
市川 忠史

 伊勢・三河湾漁場生産カモデル開発基礎調査は、 愛知県水産試験場漁場生産研究所、三重県水産技術 センターおよび中央水産研究所の生物生態部、海洋 生産部の担当者の協カのもと、平成6年度から実施 されている事業である。平成7年度から毎年検討会 が開催されており、平成9年度も11月13~14日に、 中央水産研究所において検討会が開催された。
 伊勢・三河湾周辺海域では小型底曳網漁業および 船曳網漁業をはじめ多種多様な漁業が行われてお り、全国でも有数の好漁場となっている。特にイカ ナゴについては、愛知、三重両県の調査・研究によ り資源、漁業、経営を包括した「イカナゴ漁業管理 モデル」が作られ、両県の漁業者(船曳網、小型底 曳網)が水揚げ金額を高め、翌年の適切な親魚量を 確保するために、自主的に漁業管理を行う体制がと られている。しかし「イカナゴ漁業管理モデル」で は環境要因について考慮されていないため、異常気 象などの環境の突発的な変動により予測が外れる可 能性もある。特に、平成6年漁期にはイカナゴ仔魚 の成長が「イカナゴ漁業管理モデル」で予測した値 と比較して大幅に遅れ、シラス漁解禁日の予測に大 きな問題が生じた。こうした問題に対しては、環境 要因を取り込んだ生態系モデルを構築することで予 測精度を上げられるものと期待される。本事業で は、伊勢・三河湾を一つの生態系と見立て、物理的 要因、化学的要因、生物要因を含めた総合的な研究 を実施することで、モデルで再現される事象の把握 を行うと同時に、モデル開発のためのデータベース を構築する。これらを元に生態系モデルの開発を目 指している。
 モデルで再現される事象のうち、環境要因に関し ては、冬季の基礎生産の年変動の幅が小さいことな どが明らかになっている。また、イカナゴ仔魚が減 少した平成6年漁期に、イカナゴ餌料要求量に較べ てカイアシ類生産力が非常に低かったことが明らか にされた。この原因として仔魚の加入時期に、繊毛 虫類が大増殖し、本来カイアシ類に流れるエネル ギーが繊毛虫などを中心とした微小生物環に流れ込 んだため、イカナゴの餌料であるカイアシ類にエネ ルギーが回らなかった可能性が示唆された。イカナ ゴについては、本事業開始以前から愛知、三重両県 で蓄積されてきた知見に加え、昨年度までの3年間 に、新たにイカナゴ仔魚の初期生態に関する知見や 親魚の再生産、さらには親魚による仔魚の捕食に関 する知見などが得られている。
 生態系モデルについては2つのサブモデルを構築 していくことで合意している。餌環境を中心とした プランクトンモデルでは、微小生物環を構成するバ クテリアや鞭毛藻、繊毛虫類などについて考慮する 必要があることが示されたため、従来の生態系モデ ルとは異なり、新たに微生物環の要因を組み込んだ モデルを構築していくことで合意した。一方、イカ ナゴについては餌不足を仮定して成長が止まった仔 魚を親魚に捕食させるモデルを構築し、平成6年漁 期におけるイカナゴ仔魚の減少を説明することがで きた。このことから、イカナゴモデルでは従来、考 慮されていなかった捕食の効果を入れる必要性が示 された。このモデルの精度を上げていくためには、 耳石解析結果を用いて仔魚の成長式の精度を高めて いくことが必要とされ、今後、さらに検討を行うこ とが確認された。本事業も次年度は最終年度であ る。この4年間に蓄積されたデータを整理して、さ らにモデル開発に必要なデータを蓄積していくと同 時に、今年度提案されたモデルの概念をより明確に し、可能ならば将来のモデル開発事業へと発展させ ていきたいと考えている。
(海洋生産部低次生産研究室)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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