中央水研ニュースNo.19(平成10年1月発行)掲載

【情報の発信と交流】
平成9年度上田庁舎一般公開
井口 恵一朗

 平成9年8月23日、快晴に恵まれた土曜日、地 域の方々に対して上田庁舎を公開した。行事として の一般公開は、昨年度に続いて第2回目となる。上 田庁舎の職員総出の対応に加え、本所から企画調整 部の応援も得て、開催は無事に終了した(と思う)。 前回の経験をふまえ、多少要領は良くなったもの の、それが来訪者の関心事に答えるものであったの かどうか。公開を振り返って、経過とそれにまつわ る雑感について報告したい。
 準備の都合上、開催が8月の下旬にずれ込み(昨 年度の開催は7月の海の日)、長野県地方の小学生 はすでに夏休みを終え2学期を迎えた時期に入って いた。開催者側としては、来訪者数が気になるとこ ろだが、結論から先に言えば152人、昨年比でおよ そ100人の減であった。読者数の多い地元紙の休刊 日と開催日が重なったため、マスコミを通じての開 催告知が行き届かなかったことが、来訪者数減の一 因としてあげられる。一方で、学校の先生に勧めら れて来たという小学生が目立ち、地道なポスター配 布が効を奏した形になった。特筆すべきは、2回目 の参加となるリピーターの割合が高かったことで、 一般公開が地域に浸透しつつあるという感触を得 た。
 昭和16年以来、上田庁舎は千曲川のほとりに施 設を構えてきた。豊富な河川水が当庁舎の内水面研 究を支えてきたといっても過言ではないが、全国対 応という業務の性格上、地域の方々との接点は決し て多いとは言えない。そこで、国の機関である水産 研究所が上田市にあるということを地元の人たちに 知っていただく、いわば認知度の向上を一般公開の 開催コンセプトとして掲げることにしている。研究 所が地域にとけ込むことの意義について、一言で言 い表すのは難しい。例えば、「子供電話相談室」の ような問い合わせが増えて、対応に苦慮することも あるだろう。しかし、何らかの形で貢献できる状況 を構築していくことが、豊かな研究環境を支えてく れるものと期待している。
 公開といっても、ただ門戸を解放するだけでは済 まされない。内容が肝心である。研究者相手の場で あるならば、すでに公表された論文を開陳すること で、業務内容をある程度理解してもらえるだろう。 しかし、一般の方々を相手にする場合、それがはな はだ不親切であり時に不愉快にさせることは容易に 想像される。ではどうするか。こうした局面に対処 するアイデアに乏しいのが研究者に共通した特徴で あること認識せざるをえない時間が過ぎるなか、 「出し物」を巡って庁舎内では論議が繰り返された。 ようやくたどり着いたのが、「研究成果の紹介」「研 究風景の紹介」「トピックスの紹介」それに「千曲 川の魚たち」と銘打った特別展示である。
 プロジェクト研究や経常研究の概要をポンチ絵風 にパネル上にまとめて、研究の成果として紹介し た。大人の中には足を止めて読んでくださる方もい たが、反応は今ひとつ。質問もあまりない。子供た ちに至っては、無関心に通り過ぎていく。変な模様 の壁紙くらいに映ったのかもしれない。反省点とし ては、演出にさらなる工夫が必要。
 研究風景の紹介では、各研究室がコーナーを受け 持ち、マンツーマンで対応した(写真1)。漁場管 理研究室では、魚の鱗からさまざまな情報の得られ ることを、実際に顕微鏡を使って説明した。漁場環 境研究室は、生きている水生昆虫を展示し、水質と 虫の種類の関係などについて解説した。魚類生態研 究室では、軟骨と硬骨が美しく染め分けられた魚類 の透明標本を展示し、骨学の面白さを知ってもらお うとした。どのコーナーも人気は上々で、アンケー ト調査の結果からも関心の高かったことが裏付けら れた。
 午前と午後のそれぞれ一回、肩肘の張らない講演 を通して、内水面を取り巻くトピックスの紹介を 行った(写真2)。午前の部では、「生態系と私たち」 という演題で、杉山部長が生態系の一員として生き る術について講演した。午後の部では、「日本の希 少淡水魚類」という演題で、井口主任研究官がスラ イド写真を使いながら、姿を消しつつある淡水魚の 現状を報告した。講演は今回が初めての試みであっ たが、質問が相次ぎ、予想を上回る出来であったよ うに思う。
 千曲川の魚の展示は前回同様の出し物であるが、 これに最も大きなスペースをさいた。事前の採集に は骨が折れ、県知事の許可が必要なエレクトリック ショッカーを担いで、川の中を歩き回らねばならな かった。その甲斐あって、用意した30個近い水槽 にそれぞれ種類の違う魚を入れてれてお見せするこ とができた。かつては川に親しんだ大人は、久々に 再会する魚の姿に昔を懐かしみ、また、川で遊ぶこ とを禁じられている子供は、身近な川に見たことも ない魚がいることを知って驚いていた。アンケート 調査の結果でも、人気ナンバーワン。魚類の展示そ れ自体は私たちの業務とは直接的な関係がなく、一 般公開においては、むしろ客寄せパンダ的な位置付 けにある。このような出し物で上田庁舎が印象付け られるとすればちょっと複雑な気分になるが、それ はそれで良いことなのかもしれない。来年も是非と も魚を見せて欲しいというリクエストが一番多かっ たのは事実である。
 終了後の打ち上げでは、来訪者数の分析に話題が 集まった。やはり大勢の人に来ていただくことに職 員が期待している証拠であろう。上田市住民の 1000人に1人以上は来てくださった勘定になる。
(内水面利用部魚類生態研究室)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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