しめさば

○しめさばとは
 しめさばとは、サバフィレーを塩漬けした後、酢漬けした加工品のことです。 しめさばは、関西方面で古くから生産され、食べられてきた調理品ですが、 広範囲の流通が目的の加工製品としては、歴史が浅いです。
 割烹などで造られるしめさば調理品は、酢による酸変性が魚肉表面に 留まることを良しとし、刺身あるいは膾(なます)に近いものです。 一方、しめさば加工製品は長期間の流通に耐える必要があることから、 製造工程、包装形態、冷凍処理等を工夫して保存性、流通性を高めています。 その結果、酢が魚肉内部まで浸透し、刺身や膾というよりは、なま馴れずしに似ています。
 ここでは、流通を目的としたしめさば加工製品の製造状況を中心にご紹介します。
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しめさば加工品
○生産と消費の動向
 しめさば加工製品は、全国的に生産されていますが、サバの水揚げ基地の 青森県八戸市が生産の中心地になっています。しめさば加工製品は1968年に 初めて八戸市で生産が開始されました。その後、八戸市のしめさば加工製品の 生産量はサバの水揚げ量減少にもかかわらず、増減を繰り返しながら 増加傾向に推移しています。
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八戸港のサバ水揚げとしめさば生産量の推移
○原料選択のポイント
 しめさばの原料には、マサバ、ゴマサバ、タイセイヨウサバ(ノルウェー産)が 使用されています。基本的にはマサバが主流ですが、マサバ資源の減少に伴い、 タイセイヨウサバの利用が増えました。
 タイセイヨウサバ・ゴマサバは身の締まりが悪く、特にタイセイヨウサバは 剥皮が困難なうえ、肉中の脂肪含量が多すぎることから、 しめさばに加工する場合は注意します。
 また、原料のさかなは冷凍品を使用します。これは、経済性や製造作業の 段取りで有利なばかりでなく、半解凍で処理することにより、身割れを防ぐことができ、 寄生虫の死滅にも効果があるためです。
○加工の原理
 塩漬けは、脱水による身締めと同時に、塩味付けと保存性を高めるために行います。 次に行う酢漬けは、身締めを進め、旨味、酸味を付けてさらに保存性を向上させます。 また、このような塩と酢の相互効果により、肉質が砕けやすくなること、pH低下で、 酸性プロテアーゼの活性が高まり、アミノ酸が増加することが報告されています。
●製造工程図
原料 マサバ、タイセイヨウサバ、ゴマサバの冷凍。
解凍  10度程度に一夜放置して半解凍にする。
フィレー  頭・内臓を除去して洗浄し、フィレーにする。
塩漬け  6~17%食塩水で立て塩漬けを3時間~一夜
酢漬け  酸度3%程度の調味酢に3時間~一夜浸漬
成形  頭須骨、鰭、皮等を除去し形を整える。
包装  真空包装
選別・異物検査  重量によるサイズ選別と金属探知。
凍結  -30℃以下で凍結し、-20℃以下で保管。
製品
○実際の製造
 サバは身割れしやすい原料で、身割れは製品の外観を損なうため、全工程を通して 注意する必要があります。原料は凍結魚を主に使用するため、殺菌海水で調整しながら 半解凍の状態にします。その後、機械処理でフィレーにします。機械によっては 頭・内臓の除去に手作業が必要の場合もあります。
 つづいて塩漬け・酢漬けの工程です。数回の手返しを行います。 サバは、鮮度、大きさ、脂肪含有率等によって塩や酢の浸透に差があるため、 ロットによっては試験製造を行い、塩分・酸度・漬込み時間等の条件を決めます。
 最後に、製品のチェックを兼ねて手作業で成形を行います。マサバは剥皮し、 タイセイヨウサバは剥皮しない場合が多いようです。
○製造装置
・ヘッドカッター ・真空包装機
・フィレー処理装置 ・選別機
・剥皮機 ・金属探知機
○製品の形態・包装等
 フィレー1枚入りの真空包装が主体です。業務用等に2~7枚入りの真空包装や 10~30枚入りの角樽詰め等、需要に応じて対応します。近年は少量包装の傾向にあります。
○安全・衛生管理
 しめさば製品は品目として食品衛生法上の規格基準がありません。 保管、流通では冷凍で扱うので、食品衛生法の冷凍食品の規格基準の適用を受け、 分類上は惣菜として取り扱われます。このため、製造工場の許可、一般生菌数105cells/g以下、 大腸菌群陰性が義務付けられる等、厳しい衛生管理が必要となります。
  ヒスタミン中毒(アレルギー様食中毒):サバ等赤身魚の魚肉中に多く含まれる 遊離アミノ酸ヒスチジンは、細菌が産生する脱炭素酵素によってヒスタミンに変わります。 ヒスタミンは、じんま疹等のアレルギー症に類似した症状を発症させます。
 発症した場合には、サバに対する抗原抗体反応(アレルギー)かヒスタミン中毒か、 確認するのが得策です。製造上の防止策は、ヒスチジン脱炭素酵素の産生細菌の 増殖を抑えることです。
  アニサキス症:サバにはアニサキス(寄生虫)が生存する場合があります。 アニサキスは人の胃壁に穿孔し、胃潰瘍やアレルギー症の原因になります。 アニサキスは-20℃で24時間以上冷凍することで、死滅させることができます。
○機能性成分
 サバには他の多くの青魚と同様、DHAやEPA等の高度不飽和脂肪酸が多く含まれます。 これらは生活習慣病の予防や神経系疾患の予防、肥満抑制に効果があるとされています。
○食べ方
・刺身  ・押しずし  ・マリネ  ・酢味噌和え等
○新製品の傾向
 最近では、昆布じめしめさば、子持ちしめさば、とろしめさば、あぶり焼き(たたき)しめさば、 かぶら漬しめさばなどの新製品が作られています。また、サンマ、イワシ等の他魚種への応用も 広がっています。

松原 久(青森県ふるさと食品研究センター)