魚肉ソーセージ

○魚肉ソーセージとは
 魚肉ソーセージは、普通魚肉ソーセージと特種魚肉ソーセージに大きく分類できます。 普通魚肉ソーセージとは、魚肉を挽肉もしくはすり身にしたもの、 または食肉を挽肉したものを加えて、調味料および香辛料で調味し、 デンプンや植物性タンパクなどの結着材料、食用油脂、酸化防止剤、保存料などを加え、 または加えないで練り合わせたものをケーシングに充填し加熱したものをいいます。
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魚肉ソーセージ製品
 また、特種魚肉ソーセージとは、練り合わせた魚肉に、 チーズ、グリンピース、玉ねぎ、荒挽き肉などの種ものを加えて混ぜ合わせたものを ケーシングに詰めて加熱したものです。
 いずれも製品重量のうち、魚肉は50%以上、植物性タンパク質は20%以下、 脂質2%以上、デンプン10%以下と日本農業規格(JAS)により定められていましたが、 「魚肉ハム・ソーセージ」のJAS規格は平成14年に廃止されました。
 魚肉ソーセージは、戦後の食料不足の時代に誕生した比較的新しい水産加工品であり、 現在では大手の水産加工品製造メーカーが主に作っています。
○生産と消費の動向
 戦後、魚肉ソーセージの生産は1965年(昭和40年)頃の約18万8,000tをピークに 次第に減少し始め、1990年代以降は6万~7万t台とピーク時の約3分の1になっています。
○原料選択のポイント
 原料魚は、すけとうだらすり身が主流ですが、近年は赤身魚のDHAやEPAなどの 機能性成分が注目され始めてから、健康志向に人気が高まっているため、マグロ、アジ、 イワシ、サバなどの赤身魚もさらに多く利用されるようになりました。また、最近は、 イトヨリダイ、ホッケ、サケなども利用したさまざまなバリエーション豊かな製品も登場し、 魚種の特性を活かしたソフトな魚肉ソーセージ製品も作られています。 また、それらの肉色も魚種に由来した乳白色、茶色、灰色、ピンク色などさまざまな製品があります。
○使用する副原料
 副原料にはさまざまな食材が利用されています。 特に、特種魚肉ソーセージには種ものとしてさまざまな食材が使用されています。 具体的には、鶏肉、マトン、豚肉などの粗挽き肉やその肉片、チーズ、ラード、たまねぎ、にんにく、 トウガラシ、ザーサイ、グリンピース、にんじんなど野菜類などです。
 また、そのほかに豚脂肪、魚油(DHA、EPA)、デンプン、砂糖、塩、香辛料 (ジンジャー、ペッパー、ナツメグ、シナモン、コリアンダ、オールスパイスなど)、 魚醤、魚介エキス類、アミノ酸調味料など利用できる原材料は多く、それゆえに、 さまざまな魚肉ソーセージの製品があります。
●製造工程図
冷凍すり身原料魚
採肉
切断水晒し、ミンチ
混合脱水
(サイレントカッターなど)
調味料の添加(調味液に一晩浸漬させる場合もある)
肉詰め(ケーシングチューブ詰め)
結さく(金止め)
加熱(中心温度、120℃、4分)
冷却
出荷
○加工の原理
 魚肉ソーセージの製造は、すり身に豚脂、魚油、食塩、砂糖、亜硝酸塩、調味料、香辛料などを、 また特種魚肉ソーセージの場合はさらに、種ものなど多くの副原料を加えます。豚脂や魚油は、 畜肉製品に近づけるためテクスチャーや風味の改善、食塩は魚肉中のアクトミオシンを溶解させ、 粘稠性を高めるために、亜硝酸塩は赤身魚の肉色の発色および保持のために加えられます。 また、香辛料、調味料をバランスよく配合することによって畜肉製品同様のものに仕上げます。
○実際の製造
 冷凍すり身を原料とする場合はそのまま使用できるため、サイレントカッターなどにより切断と 同時に混合します。原料魚から作る場合、その品質や製品の食感をどうするかによって、 水晒しの有無を判断します。品質の良い魚はその味を活かすために晒しません。
 一方、食感を良くする場合は水晒しを行い、弾力性を阻害する成分として水溶性タンパク質などを 除去します。赤身魚の場合は魚肉のpHを中性に調整するために重曹や重合リン酸塩を用いた アルカリおよびリン酸塩晒しを行います。
 続いて調味料の添加の工程です。亜硝酸塩は赤身魚の血合い部分が加熱によって 黒灰色に変色することを防止し、赤色の肉色を保持する効果があります。そのために、冷蔵庫内で 一晩漬け込むこともあります。 しかし、最近は、亜硝酸塩を使用せずに、天然色素を使用している製品も多いです。
 いよいよ肉詰めです。通常は、充填機(スタッファー)を用いて肉詰めを行います。 充填するフィルムは、色付きの塩化ビニリデンのケーシングチューブが一般的です。 加熱は、食品衛生法の製造基準に従い、魚肉中心温度を120℃で4分間殺菌処理する方法が 多く行われます。レトルト殺菌のため、常温保存も可能です。
○製品の形態・包装等
 ケーシングチューブ(フィルム)のスタイルがほとんどです。これは、高温殺菌しやすいこと、 また、大量生産しやすいことなどが挙げられます。また、ケーシングフィルムは、それぞれオレンジや ピンクになど鮮やかに着色してあります。以前は発色剤が一般に使用され、光の影響を受けると 退色するために遮光フィルムを使用していました。そのため、色の選択は魚肉に近い色を選んでいました。 しかし、現在は発色剤を使用しないところが多くなり、 工場内での製品の区別として色付きのフィルムが役立っています。
○魚肉ソーセージの始まり
 魚肉を原料とするソーセージは、昭和12年頃にマグロ肉でプレスハム類似品が製造されたのが 最初といわれ、もともとは畜肉のソーセージに対抗して作られました。生産は太平洋戦争で 一時中断されましたが、戦後再開され、昭和22年頃に魚肉ソーセージが製造され始めました。
 本格的に生産され出したのは、昭和28年頃に、アメリカビキニ環礁の水爆実験でマグロ漁船が 汚染を受け、マグロの人気が急降下したことに伴い、マグロの値段も大暴落し、大量のマグロが 余ってしまったことに始まります。この処分対策として、魚肉ソーセージの製造が本格的に始まりました。
 原料魚は、マグロ、鯨を主な原料としてスタートしましたが、その後はメバチ、クロカワカジキ、 アジ、タチウオなどが使用されました。しかし、1960年に冷凍すり身技術が開発されたことにより、 次第に取扱いやすく、安価なすけとうだら冷凍すり身にシフトしていくことになりました。

野田誠司(東京都立食品技術センター)