ふかひれ加工品

○ふかひれ加工品とは
 ふかひれ加工品とはサメ類の鰭を切り取って乾燥したものです。 素干し品は調理の前処理に手間を要することから近年減少し、 最近は冷凍品、レトルト品が増えています。製品の多くは業務用で、 主として中華料理用の高級食材として利用されています。
 ふかひれの食用とする部分は、鰭から皮および軟骨を除去した角質鰭条(筋糸)です。
 製品は鰭の姿をそのまま保持したもの(主として姿煮用)と、 筋糸をほぐしたもの(金糸とよばれ主としてスープに利用)に大別されます。
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フカヒレ金糸乾燥品
 一般消費者向けの製品は、昭和40年代後半に気仙沼のメーカーにより、 ふかひれスープ缶詰が販売されたのが始めで、現在はスープのほかに ふかひれラーメン用のセットや、調味済み姿煮のレトルト品などが市販されています。
 ふかひれの生産は過去には全国的に行われていましたが、サメ漁業の衰退とともに 生産量も減少しました。現在は、全国のサメ水揚げ量の7割が宮城県気仙沼港に 水揚げされることから、同地域がふかひれの主産地となっています。
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気仙沼市におけるふかひれ生産量(缶詰及び調味加工品を除く)
「気仙沼の水産」より作成
○生産と消費の動向
 気仙沼市における加工生産量を図に示しました。平成2,3年の生産量は素干、 素むき、冷凍品あわせて約800tになります。レトルト品を製造する 大手企業は気仙沼市外に立地するため、その生産量は含まれていません。
○原料選択のポイント
 主に利用されるのは、近海マグロ延縄船による水揚げ量の多いヨシキリザメですが、 ネズミザメ、アオザメを始め、ほとんどのサメが利用されています。
 原魚の鮮度はふかひれの品質にはあまり影響しませんが、 アンモニア臭の強いものは避けたほうが望ましいです。
 鰭は背鰭、胸鰭、尾鰭が利用されるほか、腹鰭などの小型の鰭もすべて利用されています。
○加工の原理
 魚体から切り取った鰭をそのまま乾燥させたものが素干し品です。 皮および軟骨を除去後に乾燥したのが素むき品です。冷凍品、レトルト品は、 素むき品に温湯による加熱と水さらしを行い、製品とします。
○実際の製造
◇素干し品
 原料は近海マグロ延縄船により水揚げされたヨシキリザメを使用し、 背鰭、胸鰭、尾鰭を切り取り加工場へ運搬します。最初に、食塩で一昼夜塩漬し、 血抜きをします。その後、水で表面の粘液や汚物を除去します。 冬期間は天日で、それ以外の季節は温風乾燥機で乾燥し、箱詰めします。
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天日干し風景
 
●製造工程図
原料 サメから鰭を切り取る。
塩漬 血抜きのため一昼夜行う。
洗浄
乾燥 天日または乾燥機使用。
包装 箱詰めにする。
出荷
◇冷凍・缶詰・レトルト品
 原料は近海マグロ延縄船により水揚げされたヨシキリザメを使用し、 背鰭、胸鰭、尾鰭を切り取り加工場へ運搬します。最初に、 水で表鱶面の粘液や汚物を除去します。 その後、60℃程度の温湯に漬けると真皮が溶け始めるので、 包丁で皮を削り取る作業が容易になります。 背鰭や胸鰭の場合はさらに軟骨を除去します。
 続いて、温風乾燥機で水分量10%以下になるまで乾燥します。 その後、蒸気または温湯で加熱後冷水で冷却することでまるみを付けます。 形が崩れた物は、ほぐして「金糸乾燥品」とします。 温湯での加熱と水晒しを繰り返し、アンモニア臭を除去します。
 最後に、冷凍品は1kg程度ずつ包装します。缶詰は数枚ずつ、 レトルト品は1枚ずつ包装しレトルト釜で加熱殺菌します。
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フカヒレレトルト品
 
●製造工程図
原料 サメから鰭を切り取る。
洗浄
皮除去 温湯に漬け、皮を除去する。
乾燥 乾燥機使用
成形 まるみを付ける。
脱臭 アンモニア臭を除去する。
包装
出荷
○製品の形態・包装等
 乾燥品はそのまま箱詰めにします。冷凍品は数パックずつ、 缶詰、レトルト品もそれぞれ数個ずつ箱詰めにします。
○食べ方
 ふかひれ自体に味はほとんどないため、スープで調味して中華料理に使用します。
○ふかひれ加工品にまつわる話題
 江戸時代から西日本を中心サメ(フカ)漁業が行われ、ふかひれは俵物三品 (煎海鼠・干鮑・鱶鰭)の1つとして清国時代の対中貿易品として輸出されてきました。 現在も、ふかひれは香港等へ輸出されています。
 気仙沼でのふかひれ生産は明治時代から行われていましたが、 地元では「さめひれ」と呼ばれ竹輪原料として漁獲されたサメの副産物という位置付けでした。 気仙沼のふかひれが全国ブランドとなったのは、一般消費者向けの商品が認知された 昭和50年代後半以降のことです。
 遠洋マグロ延縄船で混獲されたサメ類の鰭も原料となりますが、 鰭が切り取られたサメの投棄が国際的に問題視されています。
藤原 健(宮城県水産加工研究所)