塩蔵くらげ

○塩蔵くらげとは
 クラゲはアジア諸国で漁獲されており、特に中華料理の素材と して使われています。クラゲは生のままでは軟らかく崩れやすいため、 一般的には食塩とミョウバンで塩蔵してから食用としますが、 植物の葉や樹液などを用いた加工方法も知られています。 塩蔵したものは冷蔵保存も可能となります。
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製品(ヒゼンクラゲ)
 食用にされる日本産のクラゲは主にヒゼンクラゲ、ビゼンクラゲ、エチゼンクラゲの三種で、 いずれも鉢クラゲ綱の根口クラゲ目に属します。有明海沿岸域では8~10月頃にヒゼンクラゲ (地方名しろくらげ)およびビゼンクラゲ(地方名あかくらげ)を すくい網、固定式さし網などで漁獲して塩蔵、食用にします。 傘長はヒゼンクラゲで最大1m、ビゼンクラゲで70cmに達しますが、 いずれも数ヶ月間で急速に成長します。
 ビゼンクラゲはその名の通り、古くから岡山県の児島湾産のものが知られていましたが、 最近では数が減っています。近年、日本海でエチゼンクラゲが大量に発生して漁業に被害をもたらし、 社会問題となっています。
○原料選択のポイント
 ビゼンクラゲと比べてヒゼンクラゲは肉質が軟らかく、 同じヒゼンクラゲでも傘の表面に赤い斑点があるものの方が塩蔵したときに固く締まるため保存性がよく、 斑点のないものは溶けて流れやすいと言われています。 ただし、この斑点がクラゲのどの器官に相当するかは未だ不明です。
○加工の原理
 クラゲの成分はほとんどが水分ですが、塩蔵などの加工により 脱水、防腐、タンパク質凝固が促され、保存性が高まります。
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製品(ビゼンクラゲ)
(提供:福岡県有明海漁業協同組合連合会)
○実際の製造過程
 福岡県有明地区では、漁業者が漁獲したクラゲを個人で加工、 出荷することが多く、人や地域によって加工の方法は異なります。 上記製造工程は標準的なものですが、触手除去を省略する人や、 洗浄後切り分けてから塩蔵する人もいます。 また、食塩とミョウバンの混合比も6:4~6:1とさまざまになっています。
●製造工程図
原料 ヒゼンクラゲまたはビゼンクラゲ
 ↓
触手除去 触手や付属器を取り除く
 ↓
洗浄 真水で汚れやぬめりをよく洗い流す
 ↓
一次加工 食塩+ミョウバンで2~4日漬け込む
 ↓  ↓
 ↓ 二次加工 1週間程度漬け込む
 ↓ ↓  ↓
出  荷 三次加工 10日程度漬け込む

 ミョウバンの割合は季節、加工段階、クラゲの種類や大きさによって変えることもあり、 ミョウバンが多いほど保存性が高くなるといいます。漬け込み時間も業者によって差があり、 長い場合は全工程で数週間を要しますが、各加工処理を1日ずつとする場合もあります。 クラゲが大きいほど漬け込み時間が長くなる傾向にありますが、特に明確な基準はなく、 個人の好みによるところが大きいようです。
一次加工(一番漬け)
おけやたらいを使って漬け込み、出てきた水は捨てます。
二次加工(二番漬け)
一番漬けまたは二番漬けの後出荷します。 また、これらを買い取ってさらに高次の加工を施す業者もあります。 
三次加工(三番漬け)
自家消費する場合は、二番または三番漬けの後冷蔵保存します。
○製品の形態・包装等
 一般にはトレーやビニール袋に小分けされて販売されますが、 柳川近辺や中島朝市などの昔ながらの鮮魚店では、計り売りにされています。
○食べ方
 真水で塩抜きした後食べやすい大きさに切り、単独またはキュウリなどと混ぜ、 味付けして食べます。かつお節をかけてもおいしく食べられます。 塩抜き時間は短いとミョウバンの味が残り、長いと水っぽくなります。 クラゲ自体に味はほとんどなく、こりこりとした食感を楽しむものであるため、 好みによって酢醤油、ぽん酢醤油、生姜醤油、胡麻醤油などさまざまに味付けして食べます。
○クラゲにまつわる話題
 古事記では、原初の海の様子を「くらげなすただよへる」と表現しており、 島国である日本でクラゲの存在自体は早くから認識されていたと考えられます。 また、平城京から出土した木簡に備前産のクラゲについての記述があることから、 クラゲの食習慣も古くからのものであることがわかります。 記録によるとクラゲは朝廷や幕府への献上品にされており、珍重されていたことが窺えます。
 有明海沿岸でいつ頃からクラゲが食用とされ始めたかは定かではないが、 18世紀の博物誌「和漢三才図会」に肥前国の産物としてクラゲが挙げられていること、 19世紀の「有明海漁業実況図」に現在と同じように網でビゼンクラゲを漁獲する様子が描かれていることなどから、 江戸時代にはすでに食習慣として定着していたと考えられます。
執筆者:福岡県水産海洋技術センター 有明海研究所 内藤 剛
(現所属 福岡県庁 水産振興課)