この文章は週刊釣りサンデー社発行の磯釣りスペシャル(2000年3月1日号)に掲載された記事を執筆者および発行者の許諾の上、転載したものです

南半球の黒潮と横縞のグレ
黒潮研究のメッカから...5
上原伸二

 これまで、黒潮研究の最前線をご紹介するということで、黒潮や黒潮に関連した魚の話を続けてきました。海洋について我々人間が知っていることは、まだほんのわずかで、多くの謎に満ちています。黒潮に関する話題はまだまだ尽ききないのですが、今回から日本から一挙に南に目を転じてみようと思います。というのも、私の仕事の都合で、オーストラリアのシドニーに滞在することになったためです。
 シドニーのあるオーストラリア大陸東岸沿いには、流れの形成のメカニズムが黒潮と同じ東オーストラリア海流が流れています。この海流は、北の珊瑚海から南のタスマン海へと流れる暖流で、速いところでは4ノット以上の流速を持っています。日本の黒潮と同じ様に、蛇行や渦などの形成が海洋生物の分布や生産に影響を与えています。シドニー近辺は緯度を比較してもちょうど日本の薩南から紀南と同じような環境にあるといえます。
 では、どのような魚類が生息しているのでしょうか?手っ取り早くこれを調べるのは、やはり市場に限ります。シドニーは比較的シーフードが充実している街と言われており、東京の築地には及ばないものの、大きな市場があります。所狭しと並べられたトロ箱の間を巡ると、マイワシ、マアジ、シマアジ、ヒラマサ、ボラ、カマス、コチ、キス、マダイ、クロダイ、キンメダイ、マトウダイなど、なじみの魚にお目にかかることができます。いずれも、日本と同じ種かあるいは近縁の種です。刺身用のマグロ類のコーナーも設けられており、日本食の浸透ぶりも窺えます。ただし、街の魚屋では、刺身にできるような鮮度の魚はまず期待できませんが。ここで目を引くのはバラマンディーという魚です。これはアカメの仲間で、1mをゆうに越える大物がごろごろしています。
 釣り事情については、1984年時点とちょっと古いのですが、オーストラリアの遊漁連盟による興味深い報告があるので、ご紹介しましょう。この報告によれば、釣りは水泳、球技に次ぐオーストラリア第3位のアウトドア・レクレーションで、10歳以上のおよそ3分の1の国民(7割は男性)が毎年釣りに出かけるとのことです。釣りの方法としては、最も人気があるのが餌釣り(92%)で、次いでルアー釣り(26%)、エビ・カニをねらったカゴなどの仕掛け(18%)となります。こうしてみると、相当の数の釣り人がいるように思えるのですが、実際に海岸沿いを歩いてみても、日本の海岸ほど釣り人を見かけることはありません。広大な国土に、日本の7分の1程度の人口しかないからでしょうか。最近のニュースとしては、シドニーのあるニュー・サウス・ウェールズ州では、これまで湖や川での釣りに課していたライセンスを、海洋生物資源保護のため、近々海釣りにも導入する予定とのことです。ちなみにライセンス料は3日間5ドル、1ヶ月10ドル、1年間25ドル、3年間70ドルだそうです。果たしてこれは高いか?安いか?
 シドニーは入り組んだ入江と外洋に面した多様な地形を反映して様々な釣りが行われています。入江ではクロダイ、コチ、キスなど、外洋ではマグロ・カジキ類、ヒラマサ、シマアジが釣られています。磯場では、ルダリックとうメジナ(グレ)の仲間が人気です。横縞模様がある以外は、日本のメジナによく似ています。海藻を餌にして釣られており、1kg未満のサイズが通常ですが、時には5kgに達するものがいるそうです。この他、シマアジ、ヒラマサなども磯釣りの対象となっています。日本で人気のイシダイ、イシガキダイの類が見られないのは残念です。

Shinji Uehara
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