6月の流れ藻はグレの楽園
黒潮研究のメッカから...4 上原伸二
前回は、沿岸に繁茂するホンダワラ類が岩盤から離れ、沖に漂う流れ藻となること、 そして流れ藻にはブリ、カンパチ、メジナ(グレ)、クロメジナ(尾長グレ)、イス ズミ、イシダイ、イシガキダイ…等、磯物の稚魚が多数付随していることをお話しま た。今回はこれらの稚魚の生態についてご紹介します。 4年前の平成8年4月と6月に、東海沖から薩南に掛けて、 ブリの稚魚(モジャコ)の生態を調べるために、流れ藻調査を行いました。 4月は全部で174個の流れ藻を確認し、そのうちの129個を採集しました。 6月になると流れ藻の量が増え、2586個の流れ藻を確認して、181個を採集しました。 4月よりも6月の方が調査日数が多く、調査海域も広いのですが、それでもこの年は 4月よりも6月の方が流れ藻の量が多かったと言えます。採集した魚類は4月が約3千尾で、 少なくとも26種類以上いました。このうち一番多かったのはブリで、半分以上を占めていました。 2位以下は、メバル、サバ類、マアジ、メジナ(グレ)類、ウマヅラハギ、カンパチ、 ハナオコゼ…といった順番でした。メジナの仲間は、稚魚の時は種を分けるのが難しいので、 まとめてあります。6月は約4千尾を採集して、少なくとも32種類以上いました。6月になると メジナ類が一番多く、3分の1を占めていました。2位以下は、ブリ、ウマヅラハギ、カワハギ、 ハナオコゼ、オヤビッチャ、アミメハギ…といった順番でした。イシダイ、イシガキダイ、 イスズミ類は4月はほとんどいませんでしたが、6月になるとまとまって姿を結u凾タ多くの 種の稚魚は流れ藻につきはじめる大きさが1cmほどです。離れる大きさは、メジナ類は やや小さく4cm程度、イシダイ、イシガキダイ、カワハギ、メバル、マアジは5〜6cm、 ブリ、カンパチ、イスズミ類、ウマヅラハギは10cm程度、メダイは20cm程度です。 流れ藻を離れた後、沿岸域へとやって来ます。 ブリ、カンパチ、イシガキダイなどは、親とは似ても似つかぬ体色をしており、 いずれも黄褐色や赤褐色の地に縞模様や斑紋があります。おそらく海藻に似せた 保護色になっているものと思われます。話はちょっとはずれますが、イシダイは ご存じのよう白黒の縞模様で、この模様は仲間同士の認識信号となっているそうです。 船の上に1トンの水槽を設置し、流れ藻と魚の行動の観察を行ったところ、 多くの魚は昼間は流れ藻の下や周囲を泳いでいるのに、夜になると流れ藻の中に入って、 体の一部を海藻に接触させて、休んでいました。まさに、流れ藻がゆりかごとなっているのです。 こうすることによって、敵から身を守るのと、休んでいる間に流れ藻から離れてしまわないように しているのだと思われます。 ところで、4月、6月ともハナオコゼという魚が採集されていますが、 ちょっと聞き慣れない名前ではないでしょうか。この魚は、アンコウ目 イザリウオ科に属しています。流れ藻とそっくりな体色をして、流れ藻の 中に潜み、目の前に来た魚をひと飲みするという、魚食性の魚です。 この魚、体長1cmほどの稚魚から12cmほどの成魚まで、流れ藻にしか 出現しないのですが、流れ藻は1ヶ月ほどで寿命が来て沈むか打ち上げられるか するし、冬場の海には流れ藻はほとんど見られないというのに、どうやって 一生を全うしているのか、非常にミステリアスな魚です。「流れ藻と一緒に 沈んで、アンコウになるんだ」という話もあるようですが…。 末永く磯釣りを楽しむためにも、沿岸の藻場は大切にして下さい。 |