アユ孵化仔魚の海水移動とホルモン
研究課題名:沿岸域におけるアユの生態特性の解明及び遡上量予測技術の開発
実施年度:平成17~19年度
内水面研究部 育成生理研究室長 矢田 崇

目的


 孵化直後のアユは川の流れに乗って海へと流下するが、淡水から海水という異なる塩分環境に対するスムーズな適応は、その後の生き残りに大きな影響があると考えられます(図1)。アユ孵化仔魚の生理状態を明らかにするため、イオンバランスを調節するホルモン・プロラクチンの遺伝子について、河川と沿岸域で採集した天然のアユで 調べました。また海水の上に淡水を重ねた、塩分躍層を作った試験池で飼育したアユを用い、自発的に淡水から海水へ移動するときの遺伝子の変化を調べました。

図1.アユの生活史

方法


 これまでアユでは未解読であったプロラクチン遺伝子の塩基配列を決定し、メッセンジャーRNA(mRNA)の量を測定するシステムを立ち上げました。天然アユ孵化仔魚は山形県鼠ヶ関川で、流下して海水に入った稚魚は鼠ヶ関湾渚帯で採集し、遺伝子の分解を防ぐ特殊な溶液に入れて凍結保存しました。塩分躍層は、上部と下部にそれぞれ出水・排水口がある試験池で、下に海水・上に淡水を静かに流すことで作りだしました。

結果と解析


 淡水中でのイオンバランス(足らない塩分の保持)を促すプロラクチンの遺伝子は、孵化直後のアユ仔魚でも高い発現量を示しましたが、流下して海水に入るに伴い、1/10程度まで低下しました( 図2)。これは塩分の高い海水では、プロラクチンが却ってイオンバランスを損なうため、遺伝子の働きを抑制したためと思われます。塩分躍層を作った試験池で飼育したアユ仔魚は、発達に伴い淡水から海水へ自発的に移動しましたが、プロラクチン遺伝子は、まだ淡水にいる時期から低下していました( 図3)。これはアユ仔魚が、プロラクチン遺伝子の発現抑制など、海水に適応する生理的な準備をしてから、自発的に海水へ移動するためであることが推測されます。


図2.孵化直後に川で採取したアユ仔魚と沿岸域渚帯に流下したものでの、プロラクチンmRNA量の比較

図3.塩分躍層を保った試験池で飼育したアユ仔魚での、プロラクチンmRNA量の比較

波及効果


 アユ仔魚のプロラクチン遺伝子の発現動態は、その後の海洋生活期での生残を予測する指標として活用が期待されます。また、野外で採集した天然の仔稚魚でも、適切な採集方法と処理・保管ができれば精度の高いデータが得られたことから、現地委託等により全国規模に広げた調査体制の構築も可能です。

発表


  1. Yada, T., Yamamoto, S., Sakano, H., Uchida, K., Takasawa, T., Abe, N., Katsura, K., Hyodo, S. (2007) Changes in prolactin gene expression in an amphidromous migratory teleost, ayu Plecoglossus altivelis. Proc. Japan Soc. Comp. Endocrinol. 22, 43.
  2. 矢田 崇 (2008) アユ仔稚魚の環境適応に関与する遺伝子. 平成20年度日本水産学会大会シンポジウム「沿岸域におけるアユの生理・生態特性の解明」,要旨集, 338.