クロマグロの産卵場の推定と海洋環境の特徴
研究課題名:太平洋クロマグロの加入量予測に向けた基盤的研究
実施年度:平成19~ 21年度
海洋データ解析センター 広域データ解析グループ 増島 雅親

目的


 太平洋のクロマグロの産卵場は南西諸島を中心とした比較的狭い海域に限られているとされ、仔魚は産卵後数ヶ月で高知県沖や長崎県沖の海域に来遊します。このときの来遊資源量がその年生まれの本種の豊度を左右します。さらに、来遊資源量は変動が大きいことが知られています。これに対し仔魚期の生き残り度合がその重要な変動要因の1つです。

 このため目撃例の非常に少ないクロマグロの産卵について、産卵場の位置推定と環境の特徴の把握が重要です。

結果と解析


 クロマグロの主産卵期である5~6月に採集された本種の仔魚(図1)の位置から、仔魚の日齢相当の期間を時間の逆に追跡する事により、クロマグロの産卵場を推定できました。

 その結果、採集位置周辺で産卵された可能性が高く、また、より南西諸島周辺で産卵された可能性もあります( 図2)。推定産卵場の海洋環境の特性を調べたところ、海面水温25.4度、渦度(海洋の渦の強度)1.02×10-5 1/s 等に特性値を持つことがわかり、クロマグロの産卵と海面水温と海洋の渦が密接に関連して いることを表します。このように南西諸島周辺海域で特徴的である中規模渦を産卵場とする事は、仔魚の成長とその後の日本近海の摂餌海域への移動の観点からクロマグロにとって有利であると考えられます。


図1.クロマグロの仔魚(写真)と平成18年5月にクロマグロが採集された位置(緑点、青点)

図2.推定されたクロマグロ産卵場の位置。暖色程、クロマグロ産卵場である可能性が高いことを表す

波及効果


 太平洋のクロマグロの加入量変動機構の解明と加入過程を明らかにする上で端緒となる成果です。また、地球温暖化の太平洋クロマグロへの影響を予測するために重要な知見となります。