頭足類と藻類への人工放射性元素の蓄積機構の解明
研究課題名:人工放射性核種の頭足類における蓄積機構と藻類における吸着機構の解明
実施年度:平成18~22年度
海洋生産部 海洋放射能研究室 藤本 賢

目的


 日本周辺海域で漁獲される水産物の食の安全性を確保するため、海産生物中の人工放射性元素の濃度をモニタリングしています。これまで、検出されている人工放射性元素は人体へ影響を及ぼさない極めて低濃度で推移していることを確認しています。また、人工放射性元素の蓄積について、生物特異性や体内での蓄積特性を明らかにしてきました。なかでもイカやタコなどの頭足類の肝臓からは、他の魚種では見られない、コバルト(Co-60)や銀(Ag-108m)が検出されています。海藻類は一般に金属元素を高濃度に蓄積することがわかっており、海水中の微量の人工放射性元素を濃縮する可能性があります。これらの蓄積特異性をさらに詳しく解明するため、平成18年度より頭足類と藻類について、蓄積に関与しているタンパク質や低分子化合物の特定を行なってきました。

方法と結果


 放射性銀(Ag-110m)を用いたクロマトグラフィー(多成分混合物から各成分を分離分析する方法)により、銀と結合するタンパク質をスルメイカの肝臓より精製しました。精製タンパク質のアミノ酸配列を解析し、呼吸をになうタンパク質ヘモシアニンと同定しました(図1)。

 潮間帯で採取される褐藻および緑藻類を低濃度の人工放射性元素を含む海水中で培養し、藻体への放射性元素の蓄積を放射線を画像化する方法により検出しました( 図2)。この検出法により、食用とされていない海藻の一種はストロンチウム(Sr-90)を効率的に取り込むことがわかりました。今後は培養条件を検討し、吸着したストロンチウムを藻体より回収することを試みます。


図1.スルメイカより精製したヘモシアニンの立体構造モデル

図2.放射線ストロンチウム添加海水で培養した海藻類(左)と、その放射線画像(右)。放射線元素を多く含む箇所ほど黒く検出される

波及効果


 人工放射性元素の生物蓄積特性を詳細に解析することで、不測の事態が生じた時に、どのような生物のどの部位を分析すべきかを判断するための基礎的な知見を得ることができます。また、人工放射性元素を特異的に蓄積するタンパク質や化合物を発見することで、汚染海域の浄化技術や低濃度の金属元素を海水中から回収する新技術へつなげていくことが期待されます。