研究のうごき、6-21

水産食品製造用の乳酸菌発酵スターターの開発


 食の安全・安心への志向の高まり,嗜好の多様化,加工残滓の有効利用等により,魚介類を原料とした天然発酵調味料の製造量が急増している。しかし,発酵調味料の製造過程で,アレルギー様食中毒の原因となるヒスタミン(Hm)の蓄積や,異常発酵や腐敗が起こることが知られている。この研究では,高品質で安全な発酵調味料を造るために,Hm蓄積機構を解明するとともにHm蓄積が起こらないようにする水産発酵食品用のスターターの開発を目的としている。


 水産発酵食品から分離したHm生成菌の種類およびHm生成に関する遺伝子を解析した結果,Hm生成菌は好塩性の乳酸菌(Tetragenococcus halophilus) であり,Hm生成遺伝子は別種の乳酸菌のものと同じで転移性の遺伝子(プラスミド)にコードされていた。この結果から,好塩性乳酸菌のHm生成遺伝子は細菌の種を飛び越えて移動できると考えられた。つまり,Hm生成遺伝子は特定の株に留まっているのではなく,移動しながらHm生成菌を増やしていくことが示唆された。

図1.Hm生成遺伝子の群分け。細菌の種類が異なるのに遺伝子は同じ(種を飛び越えて伝播)。赤:好塩性乳酸菌 緑:乳酸菌
図2.Hm生成遺伝子がコードされているプラスミドの解析結果 青:Hm生成遺伝子 赤:遺伝子の移動に関係すると考えられる遺伝子。


  1. 各種発酵用スターター株菌を収集・保存することで,様々な水産発酵食品に対応したスターターを供給できる。
  2. 発酵スターターを使用することで発酵が安定し,Hm蓄積や腐敗による廃棄処分量の低減化や安全性確保への効果が期待される。
  3. Hmの蓄積を抑えることでHmの安全基準が厳しい欧米への輸出促進が期待される。