研究のうごき、6-18

ヒメマスが食べる餌生物の生産量を推定する


 中山間各地の貧栄養湖においてヒメマスは内水面漁業や遊漁など地場産の重要な資源として利用されており,その増殖のため稚魚放流が行われています。過剰な稚魚放流は,漁協経営を圧迫するだけでなく,餌生物を激減させることによってヒメマス資源に悪影響を及ぼします。そこで私たちは,ヒメマス資源の安定生産につながる適正な放流尾数を求める基礎として,中禅寺湖のヒメマスを対象にその餌生物を明らかにし,餌生物の生産量を推定しました。


  1. 胃内容物分析の結果,動物プランクトンのハリナガミジンコ類がヒメマスにとって重要な餌生物となっていました(図1)。季節的には,夏にオオメミジンコ,春にはヤマヒゲナガケンミジンコや底生生物のユスリカ蛹が重要な餌生物となっていました(図1)。
  2. 動物プランクトンのうち,ハリナガミジンコ類が湖水中に多く存在しました。その生産量は湖全体で4月から10月の間に500トンあると推定されました(表1)。一方,ユスリカ幼虫は沿岸帯で40トンが生産されていました(表1)。
  3. この生産量を他の湖沼と比べてみると,中禅寺湖の餌生物生産量は貧栄養湖の中でも高いことが明らかとなりました。現在,中禅寺湖のヒメマス資源は,餌生物生産量が多いにもかかわらず,やや低迷しています。このことはこの低迷が他の要因(捕食魚など)によっている可能性を示唆しています。
図1. 2007年4月から12月までのヒメマスの胃内容物組成。
占める割合が多いほど,ヒメマスにとって重要な餌生物となる。
表1. ハリナガミジンコ類とユスリカ科幼虫の月別生産量。なお,それぞれ沿岸帯と沖帯の面積に応じて推定した。沿岸帯の方が生産量は少なくなっているが,面積を考慮するとその生産力は高い。


餌生産量を推定したことにより,他魚種も考慮に入れた資源管理方策が提言可能となる。