オタマボヤの生態
-黒潮周辺海域の基礎生産を
浮魚仔稚魚生産につなぐ役割-
背景と目的
  1. 脊索動物のグループであるオタマボヤは,プランクトンとして黒潮周辺海域に多く分布している。これらは「ハウス(包巣)」と呼ばれる粘膜の網状構造物を体の外側に作り,これにからみついた小型の餌粒子を濾しとって食べるという特殊な摂食方法をとり,他の動物プランクトンより微小な有機物を食べられる(図1)。
  2. 資源となる浮魚類の仔稚魚がオタマボヤを食べている断片的な知見はあるが,高次の捕食者にどのように利用されているかは,未だ不明のままである。
  3. オタマボヤとマイワシのような浮魚類の仔稚魚と間の食べたり食べられたりの関係を詳しく調べ,黒潮周辺生態系内で基礎生産から浮魚資源に至る物質の動きの中におけるオタマボヤの役割を考察する。

図1 オタマボヤの虫体とハウス。点線の範囲が粘液のハウスで包まれている。

成  果
  1. 黒潮周辺海域における周年モニタリングを行い,オタマボヤの種組成と出現状況を解析した結果,オナガオタマボヤ(Oikopleura longicauda)が周年優占すること,黒潮の流軸付近でFritillaria pellucidaの濃密なブルームが形成されることが明らかになった。
  2. マイワシ後期仔魚が、オタマボヤの虫体のみならず,「ハウス」を餌としていることを初めて確認した(図2)。
  3. オタマボヤと浮魚類の仔魚との直接的な関係がはっきりしたことで,熱帯・亜熱帯海域でひときわ多い微細藻類等,微小な有機物が生態系内で効率良く,浮魚資源の生産に使われていることが明らかになった。

図2.マイワシ後期仔魚(28.2mmSL)の胃内容物(ハウスを円で示す)

図3.黒潮周辺海域の食物連鎖構造の概念図 (オタマボヤにより広範なサイズの基礎生産が生態系に利用される)

波及効果

  1. 黒潮周辺で産卵するマイワシ・サンマ・カタクチイワシ等の仔稚魚が摂餌に成功するかどうかという 資源全体の生残率を左右する生活史の重要な時期の生態的情報を得ることができ,資源の増減などを予測することに役立つ。
  2. よく知られた海洋の食物連鎖である「珪藻→甲殻類プランクトン→魚類」とは異なる特性を持つ食物連鎖が想定され,生態系構造モデルの精度向上に貢献する。
  3. 今年度より開始されるプロジェクト「魚種交代」の中で,魚種交代の一要因と考えられる浮魚類の初期生活史における餌料環境の変動機構解明の基盤となる情報を提供する。
問い合わせ先: 海洋生産部 低次生産研究室(日高・豊川・杉崎)
nrifs-info@ml.affrc.go.jp

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