研究の動き
アサリを分析して干潟の富栄養化を調べる
背景と目的
 陸地から化学肥料や下水処理水が海に過剰に流入すると海水中の窒素量が増加(富栄養化)して,赤潮の発生などの問題を引き起こす。
人の活動によって出された栄養塩注1)は,天然と比べて窒素安定同位体比(δ15N)注2)が高いため,栄養塩の増加は海水中のδ15Nの上昇と同時に起こり,結果的に食物連鎖系全体のδ15Nが上昇すると考えられる。
つまり,生物のδ15Nを調べることで,窒素の生息場への影響を推定することが可能である。そこで,干潟の代表生物であるアサリのδ15Nが,干潟の富栄養化の指標として利用できるかどうかを検討した。
 注1 栄養塩:窒素,燐,珪素など植物や藻類の肥料になる物質。窒素に関しては,アンモニアや硝酸。
 注2 窒素安定同位体比:窒素の安定(放射性でない)同位体(14Nと15N)の比率。δ15Nが高いと15Nの量が多い。
成 果
  1. 横浜市海の公園,浜名湖,博多湾からアサリ,底泥,海水を採集してアサリの軟体部および貝殻に含まれる蛋白質のδ15Nを測定し,栄養塩の濃度との対応を比較検討した。
  2. 海水中の窒素の濃度が高い干潟では栄養塩のδ15N が高く,アサリのδ15Nも高い傾向が見られたことから,アサリを干潟の富栄養化程度の指標として利用できる可能性が示された。
  3. アサリの軟体部と貝殻に含まれる蛋白質のδ15Nはほぼ同じ値をとることがわかった。
図1
図1.海水中の窒素の濃度と安定同位体比の関係

窒素濃度(DIN:溶存無機態窒素とPON:懸濁有機態窒素の合計)が高い干潟ではDINの窒素安定同位体比(δ15N)が高い傾向がある。

図2
図2.窒素濃度とアサリの窒素安定同位体比の関係

窒素濃度が高い(富栄養化した)干潟では、アサリの窒素安定同位体比が高い傾向にある。

波及効果
  1. アサリを指標種として,各地の干潟の富栄養化状態を生物レベルで比べることが可能になる。
  2. 古い標本のアサリ貝殻を分析することにより,過去の干潟の富栄養化程度が推定できる可能性が示された。
  3. 干潟の富栄養化程度とアサリの成長の関係を,貝殻を用いて分析できる可能性が示された。
研究協力機関:静岡県水産試験場浜名湖分場
問い合わせ先:浅海増殖部 浅海生態系研究室(渡部)
nrifs-info@ml.affrc.go.jp

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