- 背景と目的
- 全国的に厳しい経営状況にある沖合底びき網漁業を対象に,地域ごとの漁業経営特性に基づいて,資本投資の経済性分析を行う。
- トン数規模が比較的大きく,全国的に分布している二艘(そう)びき(75~125トン)を取り上げ,その主要県(岩手,愛媛,島根,山口)すべてを調査対象とする。
- 成 果
- 資本投資の経済性指標は,固定資本に対する償却前営業利益の比率(「営業利益の比」)を用いた。資本投資の経済性は,前期(1995~1997年)と後期(1998~2000年)に区分して比較した(表1)。
- 岩手県:漁労売上高に対する漁具・船具費の比率(「漁具・船具費の比」)が低く,「営業利益の比」は前期・後期とも4県の中で一番高い。
- 愛媛県:4県の中で唯一,125トンと大型船であるため,漁労売上高に対する燃油費の比率(「燃油費の比」)が高く,「営業利益の比」は一番低くなった。
- 島根県:後期は,近距離漁場の浜田沖での操業頻度が高まったために「燃油費の比」の増加率が最も低くなり,後期の「営業利益の比」は二番目に高くなった。
- 山口県:漁労売上高が前期・後期とも一番高いが,瀬びき操業の破網により「漁具・船具費の比」が高く,後期の「営業利益の比」は三番目になった。
表1.4県の沖合底びき網漁業(二艘びき)における漁労体あたりの投資経済性比較
区 分
| 岩手県
| 愛媛県
| 島根県
| 山口県
|
前期
| 後期
| 前期
| 後期
| 前期
| 後期
| 前期
| 後期
|
漁労売上高(千円)
| 278,823
| 296,275
| 276,522
| 239,533
| 209,425
| 259,404
| 302,061
| 297,126
|
漁労原価/漁労売上高(%)
| 83.9
| 81.4
| 80.1
| 84.1
| 82.3
| 82.6
| 80.2
| 82.0
| 労務費/漁労売上高(%)
| 38.3
| 37.5
| 42.1
| 37.4
| 45.1
| 41.7
| 37.7
| 35.9
| 漁具・船具費/漁労売上高(%)
| 7.1
| 4.8
| 8.6
| 9.5
| 7.1
| 7.2
| 7.9
| 8.6
|
燃油費/漁労売上高(%)
| 13.0
| 12.3
| 15.0
| 17.1
| 12.5
| 12.6
| 12.2
| 13.7
|
減価償却費/漁労売上高(%)
| 10.7
| 5.5
| 0.9
| 2.9
| 2.9
| 2.8
| 4.8
| 3.0
|
一般管理費/漁労売上高(%)
| 11.1
| 9.3
| 15.7
| 20.8
| 11.1
| 11.2
| 8.9
| 8.0
|
償却前売上総利益/漁労売上高(%)
| 28.6
| 25.8
| 20.8
| 21.5
| 19.9
| 21.7
| 24.2
| 21.0
|
平均船齢
| 5.6
| 8.6
| 8.3
| 10.8
| 12.4
| 15.1
| 7.9
| 10.2
|
乗組員数/1隻(人)
| 9.6
| 8.9
| 9.1
| 8.7
| 8.7
| 9.0
| 10.7
| 10.2
|
労務費/乗組員(千円)
| 5,507
| 6,300
| 6,359
| 5,139
| 5,420
| 5,966
| 5,317
| 5,253
|
償却前営業利益/固定資本
| 0.80
| 0.89
| -0.07
| -0.13
| 0.36
| 0.48
| 0.53
| 0.39
|
・労務費は,邦人の給与とその他労務費の計。
・固定資本は,船価/20年+漁具・船具費の計。
減価償却期間を超えた船があり,低金利であることから,固定資本に支払利息を加算しなかった。
- 波及効果
- 漁船建造計画時のトン数規模や機関馬力等の検討に活用できる。
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