クロアワビが持つ消化酵素の種類と特性の解明
研究課題名：アワビ類における腸内共生細菌叢形成過程の把握
実施年度：平成15年度
浅海増殖部　生物特性研究室　丹羽　健太郎

目的

　アワビ類は海藻類を食べますが、その消化酵素の種類や活性を知ることは、天然海域での餌の解明や最適な放流場の選定などに重要です。しかし暖流系のクロアワビでは消化酵素の精製例もなく、その特性も調べられていませんでした。そこでクロアワビ消化酵素の種類と活性の高い多糖類分解酵素についてその特性を調べました。

方法

　クロアワビ成貝( 殻長6 －11cm) の消化管内容液、消化盲嚢（しょうかもうのう）（肝膵臓にあたる器官）の磨砕液に含まれる消化酵素の活性を調べました。また、消化酵素のなかで活性の高かったアルギン酸リアーゼ、セルラーゼ、マンナナーゼを精製してその特性を調べました。

結果と解析

　消化管内溶液と消化盲嚢磨砕液から検出された酵素は、脂肪酸、アミノ酸、種々の糖質の代謝分解酵素など計19種類で、クロアワビ消化酵素が予想より多様な種類で構成されていることが分かりました（ 表1）。アルギン酸リアーゼ、セルラーゼ、マンナナーゼの分子量はそれぞれ27.5、64.6、38.1kDa、至適pH は7.0、5.0、5.0、至適温度は40、40、55℃ でした。これらの消化酵素の基質（酵素が反応する物質）は、褐藻に含まれるアルギン酸、海藻類全般に含まれるセルロース、緑藻と紅藻に含まれるデンプンで、活性の高さはアワビ類の食性を反映したものと考えられます。
表１．検出されたクロアワビ消化酵素とその活性

波及効果

　消化酵素活性が高いマンナナーゼの基質マンナンは紅藻アマノリや緑藻ミル属の藻類に含まれますが、これらの海藻は種苗生産現場では未利用です。酵素活性の知見はクロアワビ人工餌の改良に貢献することができると考えられます。

発表

    丹羽健太郎・青野英明・澤辺智雄（印刷中）クロアワビ Haliotis discus discus における消化酵素の多様性と主要多糖類分解酵素の酵素化学的特徴．水産増殖．