クロマグロの親子判定手法の開発と産卵生態の分析
研究課題名:DNA 解析による養殖クロマグロ集団の親子判定法の開発(安定採卵技術の開発)
実施年度:平成21年度
水産遺伝子解析センター 菅谷 琢磨

目的


 クロマグロは、現在世界で最も注目されている水産生物の一つであり、我が国でも刺身や寿司などの材料として欠くことのできないものです。また、近年では養殖の拡大とともに種苗生産技術の確立が強く求められています。このような中で、私たちは、奄美栽培漁業センターと連携し、DNA マーカーによる親子判定手法を用いた本種の産卵生態の研究に取り組んでいます。親魚の産卵生態を把握し、良質な卵を確保することは種苗生産技術の根幹に関わる大変重要な技術ですが、これまで十分な調査手法がありませんでした。そこで、近年発展の著しいDNA 分析技術を導入し、研究を進めています。

結果と解析


 本研究では、5つのマイクロサテライトDNA(MS-DNA)多型と、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の調節領域の塩基配列をDNA マーカーとして用い、親子判定を行いました。これにより、その日得られた卵に何尾の親が関わっていたのか把握することができます。

 これまでの研究の結果、奄美で飼育されている211尾の親魚をmtDNAマーカーで155種類のタイプに分類でき、MS-DNAを組み合わせることによって全ての親魚の個体識別が可能となりました。さらに、2008年6月17日に採集(写真1)した受精卵48個について親子判定を行った結果、全ての受精卵について雌親が特定され、17尾が産卵していたことが明らかになりました。また、一部の卵については雄親も特定でき、少なくとも11尾が関わっていると推定されました。以上のことから、2008年6月17日の産卵には雌雄合わせて少なくとも28尾の親魚が関わっていたと推測され、これ まで必ずしも全ての親魚が関わっていないとされていた予想を裏付けるものとなりました。


写真1.クロマグロの採卵のようす。生け簀表面に浮いてきた受精卵をまき網で集める

波及効果


 こうした研究を継続し、時期や環境条件と産卵との関係など、より理解を深めていこうと考えています。また、研究を進めることで、近年拡大しつつあるマグロ養殖における生産性の向上に貢献できると考えています。