凍結マグロの新しい解凍法の開発
研究課題名:凍結・解凍過程の解明による魚肉品質制御技術の開発
実施年度:平成18~22年度
利用加工部 品質管理研究室 今村 伸太朗

目的


 遠洋まぐろはえ縄漁船によって漁獲されたマグロは、死後硬直前に船内で急速凍結されるため高鮮度に保たれますが、解凍時に硬直が再び開始されます。「解凍硬直」もしくは「ちぢれ」と言われるこの現象は、大量のドリップの流出及び肉の硬化と変形による品質劣化を起こします。当研究室は凍結、解凍過程における肉質の科学的変化を把握することによって、解凍硬直の防止技術を開発してきました。凍結保存中の温度を一定時間、-5から-10℃の温度帯に上昇させることによって、硬直を防止できました。しかし、解凍時の温度上昇時に-10から0℃を通過する時間が長いと、魚肉の赤色の元である色素タンパク質(ミオグロビン)が酸化(メト化と呼ばれる現象)され、魚肉の色調が褐変化してしまい実用化の障壁となっていました。そこで、解凍硬直を起こさず、かつ良好な色調となる適切な解凍条件を見いだすために研究を行いました。

結果と解析


【昇温処理の方法】
 -3から-10℃で2時間から10日間の範囲で温度処理を行うと、硬直は抑制できても色調が褐色化する問題を生じました。しかし、生体のエネルギー物質であるアデノシン-三リン酸が残存する条件では良好な色調のままであることが分かりました。

【現場での応用】(右図)
 現場でこの解凍法を使用する場合は、肉の大きさによって中心部が所定の温度に到達するのにタイムラグが生ずるため、昇温処理はサクの場合は-7℃で1日間、ブロックの場合は-10℃で6から8日間が適していると考えられます。加工場で昇温処理を行うことによって、小売りの段階では昇温処理を必要とせず、従来の解凍方法もしくは室温での急速解凍が可能になります。なお、天然凍結マグロの場合、個体差が著しく、「ベタ」もしくは「ボケ」と言われる硬直が起きにくいものに関しては上記の方法では色調が悪化する場合があるので注意が必要です。

図.凍結マグロの新しい解凍法

波及効果


 この新しい解凍法は、高価な機材や材料を使用せずに解凍硬直を防ぐことができます。冷凍マグロの更なる高品質化に貢献し、マグロに限らず他魚種の凍結解凍技術にも応用することが可能であると考えられます。