有機スズ化合物と PCBs の食物連鎖による蓄積機構の比較


[要約]
底生生物及び魚類の飼育実験並びに食物連鎖の構造解析と生物中残留濃度との関係を解析し、底泥堆積有機スズ化合物( TBT 及び TPT)の蓄積特性を PCBs と比較した。PCBs 及びTPTは食物連鎖を経由して濃縮されるのに対し、経口濃縮度の小さいTBTは濃縮されなく、有機物質の化学的な特性の差異により食物連鎖における挙動の異なることが明らかになった。

中央水産研究所・環境保全部・水質化学研究室

[連絡先] 0468-56-2887[推進会議]中央ブロック水産業関係試験研究推進会議[専門]  漁場環境[対象]  魚類[分類]  研究

[背景・ねらい]
  疎水性有害化学物質は底泥に堆積しやすく、底質が二次的な汚染源になることは有機スズ化合物や PCBs においても例外ではない 。底質に堆積した有害物質の高次栄養段階魚類への食物連鎖を経由した移行・濃縮が危惧されている。従って、水産生物の食品としての安 全性確保のために底質の保全基準の策定は緊急な課題となっている。一方、有害化学物質の魚介類中残留濃度は、水中に溶存する物質の直 接的な蓄積、すなわち、生物濃縮係数を用いて推定されるが、予測精度向上のためには食物連鎖を通した経口的な蓄積機構を解明する必要 がある。そこで、本研究では、生物飼育実験と現場調査により有機スズ化合物( TBT及びTPT )と PCBs の蓄積機構とそれらの差異を検討 した。

[成果の内容・特徴]

  1. イソゴカイは底質中 TBT、TPT 及び PCBs を蓄積し、濃度係数は、それぞれ、1.1~3.0、1.3~16.7 及び 6.8~13.4 であった。また 、マダイによる飼料中有害化学物質の経口濃縮係数は、TBT で 0.26~0.38、TPT で 0.57、 PCBs 0.73~1.80 であった(表1)。
  2. マダイによるTBT、TPT及び PCBs の排泄速度定数は、それぞれ、0.036、0.020 及び 0.010~0.024day-1であり、マダイ による TBT 及び PCBs の代謝・排泄はTBTに比較して遅いことが明らかであった(表1)。
  3. 食物連鎖における栄養段階を残留濃度との関係を検討した調査結果(図1)では、生物中 TBT、TPT 及び PCBs 濃度は底質中濃度に比 較して高かった。TBT 濃度は、多毛類、エビ類及びシロギスではマダラやヒラメに比較して高いが、栄養段階に依存して濃度が高くなる傾 向ではなかった。一方、TPT は多毛類ーハタタテヌメリーヒラメや多毛類ーシロギスあるいはアカハゼ等食物連鎖の栄養段階に依存してそ の濃度が高くなり、PCBs と同様な傾向が認められた。
  4. 栄養段階が高くなるに従って濃度が高くなる TPT 及び TPCBs は、魚類による代謝・排泄が弱く、経口濃縮係数の大きな物質である。 すなわち、経口的に容易に取り込むが、排泄されないために食物連鎖を経由して餌から有害化学物質を蓄積することが明らかになった。
  5. これらの結果は、有害化学物質の経口的な濃縮係数と排泄速度から、有害化学物質の食物連鎖における蓄積・濃縮の傾向を予測できる ことを示唆する。

[成果の活用面・留意点]
 食物連鎖モデルの構築と予測に関する研究へと発展が期待され、本研究で得られた成果はモデルのパラメーターあるいはモデル検証用の データとして活用される。

[具体的データ]



[その他]研究課題名:底泥をめぐる食物連鎖による底泥堆積有害物質の底魚類への蓄積過程予算区分:水産振興(蓄積機構)・地球環境(海洋有害物質)研究期間:平成9年度(平成5年度~9年度)研究担当者:池田久美子、山田 久、小山次朗発表論文等:Bioaccumulation of organotin compounds in the red sea bream (Pagrusmajor)by two uptake pathways: Dietary uptake and direct uptake from water.  Environ.Toxicol.Chem.,13,1415-1422,(1994)
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