野尻湖における陸封アユの増殖と系統群分析


[要約]
 宮崎県野尻湖に生息する陸封アユについて発眼卵放流の増殖効果が確認された。 また、その系統はアイソザイム分析により海産系統であることが判明した。

宮崎県水産試験場増養殖部 小林分場

[連絡先] 0984-23-3358[推進会議]内水面(中央ブロック)水産業関係試験研究推進会議[専門]  資源生態[対象]  あゆ[分類]  研究

[背景・ねらい]
 アユは海と川を回遊して再生産を繰り返す両側回遊魚であるが、一部の天然湖やダム湖では内水面のみで再生産を行う陸封資源も存 在する。宮崎県でも野尻湖や御池にアユが陸封されており、その資源は放流や養殖用種苗として利用されているが、近年その漁獲量は減少 している。そこで、今後の資源管理のための知見を得るため陸封アユについて調査を行った。

[成果の内容・特徴]

  1. 1993年9~11月にアリザニン・コンプレクソンで標識した野尻湖産アユの発眼卵1,069万粒を湖内(図1)に放流し 、翌1994年3~5月に猿瀬にある魚道で採捕した遡上稚アユから耳石を摘出して標識を確認したところ、3月3日に採捕した稚アユ205尾の中に 1尾の標識魚が確認できたので(表1)、アユの増殖対策として一般的に実施されている発願卵放流の効果が 野尻湖においても実証された。
  2. 1995年3月に採捕した野尻湖産アユの肝臓のGPI-1と筋肉のMPIについてアイソザイム分析を行い、関等(1988年)が報告した全国12河川か ら採集された海産アユと琵琶湖産アユのGPI-1とMPIの主対立遺伝子頻度による両者の判別に当てはめたところ野尻湖の陸封アユは海産系統 であることが判明した(図2)

[成果の活用面・留意点]

  1. 野尻湖において発眼卵放流の効果が確認できたが、卵~ふ化仔魚の初期のステージでは食害による被害が大きいと考えられるので、放 流に際しては食害防止策を施す必要がある。
    野尻湖の陸封アユは海産系統であることが判明したので、再生産に寄与する放流種苗として利用することができるが、陸封資源は年変動が 大きいので、利用に当たっては乱獲しないことと増殖対策も必要である。

[具体的データ]




[その他]研究課題名:陸封型アユの増殖効果に関する調査予算区分 :増養殖試験費(水産庁委託)研究期間 :平成8年度(平成4~8年度)研究担当者:大木雅彦発表論文等:1)海産アユ種苗回帰率向上総合検討調査(抄):陸封型アユの増殖効果に              関する調査.平成6年度宮崎県水産試験場事業報告書,285,1996.      2)アイソザイム分析手法による魚介類の優良遺伝形質の選抜試験:県内陸              封アユのアイソザイム分析.平成7年度宮崎県水産試験場事業報告書,              301-303,1997.
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