モクズガニが天然遡上できない川での種苗放流による資源増殖


[要約]
 ムによりモクズガニが天然遡上できない川に甲幅3~5mm程の稚ガニを盛夏に放流しカニ篭を用いて追跡調査をしたところ、放流翌々年(放流3年目)の秋口には商品サイズである甲幅約60mmに達した。放流地先の資源動向としては、放流3年目の春には一部に降河がみられ、4~5年目にかけて大部分が降河し、6年目には捕獲できなくなった。

大分県海洋水産研究センター内水面研究所

[連絡先] 0978-44-0329[推進会議]内水面(中央ブロック)水産業関係試験研究推進会議[専門]  内水面、増養殖技術[対象]  他のカニ類[分類]  研究

[背景・ねらい]
 モクズガニは降河型の通し回遊を行う水棲のカニで、塩分を含まない環境では産卵しないためダム等で海との連絡を絶たれた水域で は自然分布できない。モクズガニは河川漁業の重要な対象種であるが、大分県ではその面積の約3割が遡上障害により分布しない流域とな っている。それらの流域は生息に不適というわけではなく、むしろ好適な環境条件を備えている場合が多く、河川の生産力を有効に生かし きれていない。
 そこで人工種苗をこれら水域に放流し資源を再生させるための基礎データを得ることを目的に平成2年度から種苗放流追跡調査を実施し た。

[成果の内容・特徴]

  1. 主な調査場所は瀬戸内海に流れ込む山国川の支流で耶馬渓ダム上流の山移川、有明海に流れ込む筑後川水系夜明ダム上流の小野川と有 田川、日向灘に流れ込む北川の北川ダム上流の市園川と田代川と中岳川の計6河川で、それぞれ放流は平成2・4年、平成3年、平成6年 、平成4年、平成5、平成7年に実施した。各河川の調査定点は1河川あたり4~5カ所設定した。(図1) に示した調査定点はst.0が放流点で、プラス側が上流の定点で、マイナス側が下流の定点になる。追跡調査は目合い10mmのアナゴ篭を 使用し、採捕日前日に冷凍イワシを寄せ餌として入れ、各調査定点ごとに4篭づつ淵に沈めておき翌日に取り上げた。(ただし放流1年内 は徒手によった)捕獲したモクズガニは甲幅、体重を測定し、雌については成体か未成体かを識別した。
  2. 成長ー低水温下では脱皮しないため、11月から翌年3月まではほとんど生長がみられない。放流した年(放流1年目)は冬期生長停滞 期までに平均甲幅約10mmに、放流2年目は約50mmに、放流3年目は約60mmに、放流4年目は約65mmに、放流5年目は約70mmになる。
  3. 単位努力量あたりの漁獲量(CPUE)ーカニ篭では甲幅30mm以下の個体はほとんど入篭しないため、カニ篭で捕獲され始めるのは放流2年 目の夏からである。CPUEのピークは調査河川により異なるが放流3年目にあるようである。そのごCPUEは年を追うごとに減少し、放流6年 目には定期調査では捕獲できなかった。(図2)

[成果の活用面・留意点]

  1. これまでの試験を通して漁協に種苗放流の有効性の認識が浸透し、平成9年度からは県下の大部分の内水面漁協参加の下、人工種苗放 流が開始される予定になっている。

[具体的データ]



[その他]研究課題名:モクズガニの資源回復に関する研究予算区分 :県単、水産業地域重要新技術開発促進事業研究期間 :平成9年度(平成2~8年度)研究担当者:横松芳治 景平真明発表論文等:なし
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