人工アユの特性(水温、とびはね行動となわばり形成能)


[要約]
 人工アユのなわばり形成能を検定した。水温及びとびはね行動と攻撃行動の関連等を水槽内で観察した。水温23~27℃で攻撃頻度が高く攻撃行動を起こす下限は9℃前後と推察された。また、とびはね行動と攻撃行動の間には相関は認められなかった。

群馬県水産試験場

[連絡先] 027-231-2803[推進会議]内水面(中央ブロック)水産業関係試験研究推進会議[専門]  内水面・増養殖技術[対象]  あゆ[分類]  研究

[背景・ねらい]
 人工アユは近年、生産技術の向上とあいまって質的な向上も著しく、河川放流後の漁獲調査において高率で釣獲され、友釣り用種苗 としての評価も高まっている。しかし、これまで群馬県水産試験場で継代されている人工アユ(22~24代)の種苗特性は十分究明されている とは言えない。そこで、友釣りでの漁獲と密接に関係するなわばりアユの攻撃行動をアユの体形を模したモデルを攻撃対象として用い、水 槽内で観察した。

[成果の内容・特徴]

  1. アユの単位時間(10分)あたりの攻撃回数は水温の上昇により増加し、下降に伴い減少した(水温9~27℃の条件下)。
  2. 個体間で攻撃レベルに差があったが、人工アユ種苗は水温23~27℃で高い攻撃性を示し、この範囲以外では攻撃頻度が低下する傾向が 認められた。なお、供試魚の飼育水温は14~17℃の範囲であった(図1)
  3. 水温11℃以下ではほとんど攻撃行動が認められず、攻撃行動の下限水温は9℃前後と考えられた(図2)
  4. 水温の上昇時と下降時の同一水温での攻撃頻度を調べた結果、両者に有意な差は認められなかった(Wilcoxon test)。
  5. とびはねアユと、とびはねなかったアユについて攻撃行動の出現頻度と単位時間(10分)あたりの攻撃行動回数について検定すると( 供試魚各55尾)、両者共に有意差は認められなかった(G test,U test)(図3)。なお、とびはね 検定は攻撃行動の実験の20~50日前に、アユ1個体に対し2回実施し、2回とも飛び跳ねたものを「とびはねアユ」、2回とも飛び跳ねな っかものを「とびはねなかったアユ」とした。

[成果の活用面・留意点]
 種苗間で水温に対する反応に違いがあることが指摘されている。河川の水温に適した種苗の選択が有効と考えられるが、水温の変動等を 考慮すると、広い水温域で高い攻撃頻度が持続する種苗の放流が、釣獲率の向上につながるといえよう。また、よくとびはねる種苗が最終 的によく再捕される可能性はあるが、とびはねない種苗も放流後の定着条件さえ整っていれば強固ななわばりを形成し、釣獲される確率は 高くなるものと考えられる。一面的な評価でなく、種苗の特性を考慮し、利用することで全体としてより高い放流効果が期待できると考え られた。種苗の飼育前歴(初期生物餌料投与量、飼育水温など)および発育ステージ(ふ化後の日数とサイズなど)がなわばり特性に及ぼ す影響が、検討課題として残されている。

[具体的データ]




[その他]研究課題名:アユの種苗性に関する研究予算区分 :人工アユ養殖研究(県単)研究期間 :平成5~7年研究担当者:田中英樹、吉沢和倶発表論文等:
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