魚にやさしい森づくり調査


[要約]
 河畔林植生は夏期の水温上昇を抑制してサクラマス幼魚の成長と生息に良好な環境を提供しているとともに、水中カバーを提供して、稚魚の定着と幼魚の越冬に極めて重要な環境を作り出していることが明らかになりました。

北海道立水産孵化場・北海道立林業試験場[連絡先] 0123-32-2135[推進会議]内水面(中央ブロック)水産業関係試験研究推進会議[専門]  内水面、漁場環境[対象]  さくらます[分類]  研究

[背景・ねらい]
  現在、自然が豊かと言われる北海道内の河川においても、上流部では森林の開発、下流域では河川の改修などで、魚類の生息環境 の悪化がいっそう進んでいます。近年、森林と水産資源の密接な関係が見直され、魚の生態に及ぼす森林の影響に対する関心が高まってい ますが、その具体的関連についてはあまり調べられていません。そこで魚に優しい河川環境の創造をめざして、サクラマスの河川生息に及 ぼす河畔林の影響を調べました。

[成果の内容・特徴]

  1. アクリル塗料の皮下注入とヒレの切除を組み合わせた個体識別標識調査の結果、サクラマス稚魚の河川定着以後の移動範囲は極めて狭 い(大部分は20m以下)ことが明らかになり、さらにその定着には水中植生等による障害物が作り出す流れの極めて遅い河川環境が必要で あることが解りました。
  2. サクラマス幼魚の成長停滞を招く水温は24℃以上であることが明らかになり、夏場の河川水温の上昇はサクラマス幼魚の成長と生息密 度を抑制する事が解りましたが、河畔林の樹冠による河川水面の被陰は、夏期水温の上昇を抑制する事に大きく役立っています。
  3. 厳冬期のサクラマス幼魚はヨシなどが倒れた流れの緩いワンドや雪によって水中に没した笹の葉間などで越冬しており、植生カバーは サクラマス幼魚の越冬環境としても重要であることが明らかとなりました。

[成果の活用面・留意点]

  1. 河畔林が存在する河川では水温が低く保たれ、隠れ場所が豊富で越冬場所も多く、瀬・淵に富んだ多様な地形が形成されると同時に、 夏期の渇水期に必要な流量を確保でき、豊富な魚類群集を維持できると考えられます。従って河畔林を保全あるいは人工的に創造して地形 に変化を持たせることによって、水資源の保全、生物の多様性を作り出す渓流管理がこれからの方向性と考えられます。
  2. 具体的な流域保全プロセスとして、1)流域の地形、河畔林の現状、魚の生息状況などの流域の分析、2)一定の幅を持つ連続的な河畔 林管理帯の設定、3)倒木の人工的設置やウエッジダムなどの構造物の設置による再生手法の実行の3つのプロセスが考えられます。

[具体的データ]


[その他]研究課題名:山地渓流における魚類増殖と河畔林整備に関する研究予算区分 :道単事業研究期間 :平成9年度(平成6年4月~平成9年3月)研究担当者:道立水産孵化場・道立林業試験場積丹共同調査グループ発表論文等:北海道立水産孵化場・北海道立林業試験場(1995).      山地渓流における魚類増殖と河畔整備に関する研究.      平成6年度共同研究報告書      同上(1996).平成7年度共同研究報告書      同上(1997).平成8年度共同研究報告書
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