黒潮源流域における流動観測手法の確立と流動特性について


[要約]
 従来、観測頻度が著しく少ない黒潮源流域(沖縄周辺域)で、定期的に頻度高く航行するフェリーボートを利用した流動観測手法を確立した。取得データからの解析により中規模渦等の流動を把握、その特性を解明しつつある。
西海区水産研究所・海洋環境部・海洋動態研究室
沖縄県水産試験場
[連絡先]  0958-22-8158
[推進会議] 西海ブロック水産業関係試験研究推進会議
[専門]     海洋構造
[対象]     
[分類]     研究

[背景・ねらい]
 黒潮源流域は、日本近海を流れる黒潮、対馬暖流の上流域にあたり、有用漁業資源の再生産等の生物学的見地からも注目される水域である。 特に、この海域の海水流動については卵・稚仔の輸送・拡散さらに分布に大きな影響を与えることから、その実態を時空間的に詳細に把握すること が必要である。しかし、この海域は日本本土から遠いこともあり、日本近海に比べると観測調査の絶対量が著しく少ない。また、今後においても、 従来のような観測船による調査のみでは、大幅なデータの増加は望めない。
 そこで、観測域としては航路線のみに限定されるが定期的かつ高頻度に運行されているフェリーボート(沖縄本島-南北大東島間・約370km )を利用して、簡便で精度の良いデータを得るための調査手法の開発を行い、さらに得られたデータを用いて海水流動の実態解明を試みた。
[成果の内容・特徴]
  1. 偏流計データの簡便な補正方法を確立し、必要とする流況現象を把握するのに十分なデータ精度とすることができた。
  2. 南西諸島の東方近海には、諸島沿いの流れ、すなわち北東方向の流れが卓越することが明らかになった。
  3. 沖縄東方海域には直径約200kmの高圧性の中規模渦が、しばしば出現することが明らかになった。
  4. この中規模渦の観測線上における時系列解析を行った結果、渦の西方への移動が確認され、この移動速度は約5~10cm/secと見積もら れた。
[成果の活用面・留意点]
 この海域に分布・生息する様々な生物、特に遊泳力の乏しい卵・稚魚等の輸送・拡散、さらに生き残り等を考察する際の基礎的知見となる。 しかし、データはまだ蓄積が始まったところなので、長期的・広範囲的な海洋に関連した流動特性の解析にはいま暫くのデータ収集が必要となっている。
[具体的データ]
図1.航路上における流向の頻度分布
図2.航路上流れベクトルの航海時毎変化
図3.航路上区分域における南北成分流の時系列変化
図4.航路上流れベクトルと観測船(ADCP)による観測結果

[その他]
研究課題名:琉球列島近海の海流系と水塊構造の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成7年~
研究担当者:森永健司(西海区水産研究所)、鹿熊信一郎(沖縄県水産試験場)
発表論文 :
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