湾岸戦争による原油流出の後遺症

[要約]
 湾岸戦争後のペルシャ湾の石油汚染の調査を行った。石油成分中で海産魚介類に毒性が強く、環境中の残留性の強いジベンゾチオフェンの環境中分布は、底質で非常に高い値が認められ、未だに石油流出の後遺症のあることが明らかになった。
中央水産研究所・環境保全部・生物検定研究室
[連絡先]	0468-56-2887
[推進会議]    中央ブロック水産関係試験研究推進会議
[専門]    漁場環境
[対象]    環境試料
[分類]    調査

[背景・ねらい]
 1991年の湾岸戦争による大量の原油流出(400万バレルという推定値がある)は、ペルシャ湾(現地ではROPME Sea Area)の生物相に多大な影響を及ぼしたが 、その後の原油汚染状況がどの様になったのかという情報は最近ほとんど聞かれない。そこで、ペルシャ湾沿岸の石油汚染からの回復状況を知るため、海水、底質及 び貝類中に残留する石油成分の調査をすることになった。今回の調査では、図1に示すとおり海産魚介類に強い毒性を持ち、環境 中への残留性の高い成分であるジベンゾチオフェン(以下DBと略記)に注目することとし、その環境中分布を調べた。
[成果の内容・特徴]
  1. 海水中DB類は21ng/L以下であり、マダイの96時間半数致死濃度150μg/Lより著しく低い濃度であることから、生物に影響を及ぼすような濃度レベルではないと考 えられた。
  2. 図2に示すとおり、日本沿岸(最高33.3ng/g)に比較してペルシャ湾沿岸の底質中DB類濃度は600~127,000ng/gと著しく高く、生物に影響を及ぼす可能性が十分 あるものと考えられた。
  3. 図2から明らかなように、同一地点(図中のSt.17)でも表層で600ng/g、9-12cmの部分では41500ng/gのDB類が検出されており 、底質の深度に伴いDB類温度の増大する傾向が認められた。これは原油で汚染された底質の上に新たな砂等が堆積したためではないかと考えられる。
  4. 採取された生物は、2種類の巻貝類のみであった。それらのDB類濃度は、58~89ng/gであり、同時期に調査した我が国沿岸の魚介類中DB濃度と比較して決して高 い値とは言えなかった。
[成果の活用面・留意点]
 ペルシャ湾沿岸諸国では、原油流出後時間的経過を追った石油汚染状況調査が十分には行われておらず、本研究の成果がペルシャ湾沿岸諸国の今後の環境調査 及び石油汚染対策に役立つものと考えられる。

[その他]
研究課題名:原油に含まれる有機硫黄化合物の海産魚類に与える影響に関する予備的研究
予算区分 :地球環境研究推進総合研究費
研究期間 :平成6年度
研究担当者:小山次郎、黒島良介
発表論文等:The toxicity of dibenzothiophene and its distribution, Proceeding of
            International Symposium on the Status of the Marine Environmental in
            the ROPME Sea Area after the 1990-1991 Environmental Crisis with 
            special emphasis to the Umitaka-Maru Cruises, p.64-65,1995
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