深海微生物の探索、分離、分類及び特性解明


[要約]
 水深3,100~6,100m深海より採取した深海性魚類の腸内容物から、独自のドラヤキ法により偏性および通性好圧細菌を純粋分離し、約150株のストックカルチャーを構築した。これらの中には、EPAやDHAの産生株が存在した。
中央水産研究所・利用化学部・応用微生物研究室
[連絡先]  045-788-7660
[推進会議] 水産利用加工推進会議
[専門]   水産生物利用
[対象]   微生物
[分類]   研究

[背景・ねらい]
 水深5,000~6,000mの深海は、常に、地上では存在しない500~600気圧の高圧下にあり、温度も3±1℃と低温である。この様な非常に特殊な深海に生息する微生物 は有用な生物機能や菌体成分などを持つと期待されるが、高圧下の実験の困難さからほとんど研究されていない。そこで、深海微生物を探索し、その特性を解明し、21世紀 に向かって,高圧生物学の基礎的理解を深めると共に、それらの持つ生物機能および菌体成分や代謝産物の有効利用技術の開発に資することを目的とする。

[成果の内容・特徴]

  1. 深海微生物はその生息環境から好圧性かつ好冷性という地上の微生物とは全く異なった特徴を持っている。そこで、深海微生物を純粋分離するために、ドラヤキ法と名 付けた加圧下で寒天平板にコロニーを形成させる独自の方法を開発した。深海3,100~6,100m深海より採取した深海性魚類[シンカイヨロイダラ(Coryphaenoides yaquinae) 、ヨロイダラ(Coryphaenoides armatus)、およびホラアナゴ類(Ilyophis sp.)]の腸内容物から、このドラヤキ法により偏性好圧細菌および通性好圧細菌の 純粋分離に成功した(写真1図1および)。
  2. 現在、深海性魚類の腸内容物9試料より、ドラヤキ法による現場圧下分離で79株、さらに大気圧下分離で75株の計154株の深海微生物のストックカルチャーを維持している。
  3. 通性好圧細菌5株の総脂質脂肪酸組成を分析したところ、細菌では稀な高度不飽和脂肪酸(EPAおよびDHA)を含んでいることを明らかにした( 表3)。
[成果の活用面・留意点]
 世界でも全く行われていない深海性魚類の腸内細菌のストックカルチャーを構築し、今後、これらの生物機能、菌体成分、および代謝産物の有効利用を目指す研究を進めることを可能にした。また、これより高圧生物学の基礎的理解が深められると期待される。

[その他]
研究課題名:深海微生物の探索、分離、分類及び特性解明
予算区分 :科学技術振興調整費(海洋深層資源開発)、大型別枠(新需要創出)
研究期間 :平成8年度(平成元~2年、平成3年~)
研究担当者:中山昭彦、矢野 豊
発表論文等:1)Akihiko Nakayama, Yutaka Yano, and Katsuhiko Yoshida(1994)
        New method for isolating barophiles from intestinal contents
        of deep-sea fishes retrieved from the abyssal zone. 
       Applied and Environmental Microbiology, 60:4210-4212.
      2)Yutaka Yano, Akihiko Nakayama, Hiroaki Saito, and Kenji Ishihara(1994) 
       Production of docosahexaenoic acid by marine bacteria isolated
        from deep sea fish. Lipids, 527-528
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