衝撃的な波力が作用する場合の防波堤の壁に生じる歪み


[要約]
 防波堤には台風時や冬季波浪時に極めて大きな波力がかかる。このような時に防波堤が破壊されないことが漁港を安全な施設に保つために必要である。この研究では衝撃的波力が作用した時の防波堤の壁に生ずる歪みを調べ、どのように破壊されていくかを明らかにし、防波堤の強度の強化手法について提案を行っている。
水産工学研究所・水産土木工学部・漁港水理研究室
[連絡先]  0479-44-5939
[推進会議] 水産工学研究推進全国会議
[専門]     水産工学
[対象]     水産土木
[分類]     研究、行政

[背景・ねらい]
 防波堤は漁港に来襲する波浪から守るための基本的な施設である。これが破壊されてしまうと漁港は波浪に対して無防備となり、漁 港の機能(漁獲物の陸揚げ、出漁準備、補給・修理、避泊、休憩等)が長期的に低下することになる。主要な防波堤の被害は防波堤の移動 、防波堤の転倒、防波堤自体の破壊である。防波堤の転倒は近年極めて少ない。防波堤が単に移動しただけならば漁港にとっては大きな問 題とならない。問題は防波堤自体が完全に破壊されてしまうことである。防波堤の復旧に時間がかかるばかりでなく、漁港の機能に大きな 支障が出てしまう。従って、設計波以上の波が来襲したとしても防波堤が破壊されないことが重要となる。このようなことから、防波堤に 大きな波力(衝撃砕波力)と防波堤の壁に生ずる歪みの関係を調べ、どのように破壊に至るかを明らかにする必要がある。その上で防波堤 の設計法についての改良を検討しなければならない。

[成果の内容・特徴]
防波堤に関して水理模型実験と数値シミュレーションを実施して、その結果に検討を加えた。その主要な項目を以下に示す。
  1. ケーソン壁では鉛直曲げ歪みは水平曲げ歪みより著しく小さく、壁面においては主として水平方向の曲げモーメーントにより波力に抵 抗していると考えられる。
  2. 波圧ピーク時刻と歪みのピーク時刻の時間差は極めて小さくほぼ同時と考えられる。
  3. 水平曲歪みと波力はほぼ比例関係にあること がわかった。
  4. 計算値は実験値の傾向とほぼ一致する。実用上は衝撃砕波というかなり瞬間的な外力による壁面に生ずる歪み分布を静的な弾性理論に より判断できることが示された。
  5. 実験結果及び計算結果から、隔壁に沿って歪み(壁表面で引っ張り)が大きく、900μを超えるケースがあった。この様な歪みが生 じれば、実際のケーソンでは隔壁沿いにクラックが生じ、破壊に至ることになる。
  6. 5.からケーソン壁が破壊しないようにするためには隔壁近傍での曲げ強度を大きくすることが必要であると考えられる。

[成果の活用面・留意点]
 防波堤の隔壁付近を強くすること(鉄筋量を増やす、コンクリート強度を大きくする、壁を厚くする)により、防波堤の壊滅的な破 壊を防止することができ、安全な漁港の整備や海岸事業等に大きく貢献する。

[具体的データ]
図-1.堤体模型断面図
図-2.最大波力時の波圧分布
図-3.実スケールでの水平曲げ歪みの等値線図

[その他]
研究課題名:ケーソン堤の破壊現象の解明と対策
予算区分 :経常・漁港漁村
研究期間 :平成3年~平成6年
研究担当者:中山哲嚴、大槙正紀、山本竜太郎
発表論文 :防波堤ケーソンに作用する波力及び歪み分布について、平成5年3月、
      日本水産工学会論文集p133-134
      衝撃砕波力によって発生するケーソン壁の歪み特性、平成8年3月、
      水産工学研究所研究報告書p1-26
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